番外編
□二月:バレンタインデー。
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屯所からの帰り、スーパーに寄ってバレンタインの材料の買い出しをすることにした。ざっと見積もって五十……六十人分?
一口大のチョコレートを一人に三個として……ブツブツ計算しながら買い物カゴにぽんぽん放り込んでいく。
店頭にあるものをほとんど買い占める勢いだったので、おかげで両手にずっしりと食い込む重さの荷物になった。
ヨタヨタしながら家路を歩いていると、顔がボコボコの近藤さんに遭遇。
「おー、茜ちゃん! いま帰りかい!?」
「はい、まあ。
それより、その怪我はまた妙ちゃんからの愛の鞭ですか……?」
「ああ、まあね!」
お妙さん恥ずかしがり屋さんだからー、とトンチンカンな答えが返ってくるのはいつものこと。
「近藤さん、手当てするからうちに寄って下さい」
「へ!? いや、女の子の家に上がり込むのはちょっと……!!」
「うちなら誰も誤解しませんて。はい、荷物持って」
「でも……」
「いいから来なさい」
「はい……!」
有無を言わさぬ私の言い方に、茜ちゃん怖い……と言いつつも、近藤さんは私の両手から荷物を取り上げた。
「あ、私も持ちますっ」
「いいからいいから」
すたすた行ってしまう近藤さんを慌てて追いかける。怪我人に荷物持ちさせるのは、何だかちょっと違うような……。
でも優しくされると嬉しかったり(単純だなぁ……)。
家に着くと荷物を居間の炬燵に置いて、近藤さんには座っていてもらう。
救急箱とぬるま湯の入った洗面器を用意すると、すぐに怪我の手当てを始めた。
「痛かったら言ってくださいね」
「ああ」
濡らした手拭いで傷口をきれいにしようと、近藤さんに近寄る。膝立ちになって顔に手を伸ばす、と。思ったより近い。
近藤さんが目を閉じてるからいいものの、至近距離で見つめられたりしたら……(うわあああ)。
今のうちに済ませてしまわないと、なんか恥ずかしい……。
痛くないように、優しく丁寧にそおっと。
「あの……茜ちゃん? もっとガシガシやってもオジサン平気よ?」
「え、でも……」
遠慮がちに目を開けた近藤さんと、わずか二十センチの距離で目が合った。
「…………」
「…………」
しばらく無言で見つめ合う。
ヤバい! 顔近い! それになんか恥ずかしい!
「あああの、すみません! じゃあ近
藤さんにお願いしていいですかね!?」
「ああ、うん! 俺こういうの慣れてるから!」
「じゃあ、私ちょっと荷物片付けてきます!」
「う、うん! こっちは大丈夫だから!」
私も近藤さんも妙な空気を打ち消したくて不自然に声を張り上げると、そそくさと離れた。
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