なりゆきまかせ
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熱が上がってきて、起きて微睡んでまた眠る、というのを何度か繰り返した。
何度目かの目覚めの後、汗でじっとりと湿った襦袢が気持ち悪かったが、全身がだるくて起き上がるのが億劫だった。
しん、とした部屋の中。
起き上がれないくらいに辛くて、この辛さを和らげることもできなくて、急に心細くなってきてしまった。
ああ、そうだった。
一人暮らしって病気した時、すごく辛くて淋しいんだよなぁ……。
そんなことも忘れるくらい、毎日が忙しくて楽しかった。
「はあー……しんど……。なんか分かんないけど泣きそう……」
泣くのをこらえようかと思った。
でも今は一人きりだから、誰に泣き顔を見られる心配もない。
辛いからか淋しいからかは分からなかったけど、溢れる涙を拭わずに、ただ静かに泣いた。
――シュンシュンと蒸気の上がる音がする。
ああ、これは石油ストーブの上で薬缶が鳴いている音だ。
額に乗っていた濡れタオルが温くなっていて、不快だったので枕元の洗面器に戻した。
(あれ……私、独りだったのに……)
ぼんやりした頭で部屋を見回す。そこは紛れもない、実家の私の部屋。
いつのまに銀魂の世界から戻ってきたのだろう。
台所から人の動く気配がする。
「おかあ……さん……?」
目が覚めた。
いつの間にか日が傾いて、部屋の中は薄暗くなっていた。
そこは、今や見慣れた銀魂世界での我が家の寝室。
でも、夢と同じだったのは額に乗せられていたタオル。
「あれ……?」
一体誰が置いてくれたんだろう。
その時、襖が開いて顔をのぜかせたのは、これまた見慣れた銀髪だった。
「よう。起きたか」
「坂田さん……来てたんだ……」
「おー。来る時にいろいろ買ってきてやったからな。メシ食った?」
「ありがとう……。食欲なくて、何も食べてないです……」
「んじゃ、何か食って。んで、銀さんが病院連れてってやっから」
「病院……」
坂田さんはビニール袋をガサゴソ探りながら言った。
ぼんやりした頭で考える。
病院行くなら保険証いるなあ……私、保険証どこやったっけ……? てゆうか、こっちの世界で保険証なんかないや……。
「あの……私、病院行かない……」
「はあ? なんで」
「だって……あの……」
正直に話すわけにはいかないし、かといって今の状態で嘘なんか吐いても、頭回ってないから絶対ボロが出てしまう。
私が口ごもると、坂田さんもそれを察してくれたようで、ため息をひとつ吐いて頭を撫でてくれた。
「わかった。んじゃ、病院はやめて薬飲んで寝てなさい」
「……はい……」
「薬飲む前に、茜ちゃん何食う? プリンとかゼリーとかアイスとか、いろいろあるけど。今日は先に選んでいいよォ」
「今日は……」
甘いもの大好きな坂田さんなりの優しさ(?)に苦笑いしつつ、ゼリーを貰った。
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