なりゆきまかせ

□09
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 熱が上がってきて、起きて微睡んでまた眠る、というのを何度か繰り返した。

 何度目かの目覚めの後、汗でじっとりと湿った襦袢が気持ち悪かったが、全身がだるくて起き上がるのが億劫だった。

 しん、とした部屋の中。
 起き上がれないくらいに辛くて、この辛さを和らげることもできなくて、急に心細くなってきてしまった。

 ああ、そうだった。
 一人暮らしって病気した時、すごく辛くて淋しいんだよなぁ……。

 そんなことも忘れるくらい、毎日が忙しくて楽しかった。

「はあー……しんど……。なんか分かんないけど泣きそう……」

 泣くのをこらえようかと思った。
 でも今は一人きりだから、誰に泣き顔を見られる心配もない。
 辛いからか淋しいからかは分からなかったけど、溢れる涙を拭わずに、ただ静かに泣いた。





――シュンシュンと蒸気の上がる音がする。
 ああ、これは石油ストーブの上で薬缶が鳴いている音だ。

 額に乗っていた濡れタオルが温くなっていて、不快だったので枕元の洗面器に戻した。

(あれ……私、独りだったのに……)

 ぼんやりした頭で部屋を見回す。そこは紛れもない、実家の私の部屋。
 いつのまに銀魂の世界から戻ってきたのだろう。
 台所から人の動く気配がする。

「おかあ……さん……?」





 目が覚めた。
 いつの間にか日が傾いて、部屋の中は薄暗くなっていた。
 そこは、今や見慣れた銀魂世界での我が家の寝室。
 でも、夢と同じだったのは額に乗せられていたタオル。

「あれ……?」

 一体誰が置いてくれたんだろう。
 その時、襖が開いて顔をのぜかせたのは、これまた見慣れた銀髪だった。

「よう。起きたか」

「坂田さん……来てたんだ……」

「おー。来る時にいろいろ買ってきてやったからな。メシ食った?」

「ありがとう……。食欲なくて、何も食べてないです……」

「んじゃ、何か食って。んで、銀さんが病院連れてってやっから」

「病院……」

 坂田さんはビニール袋をガサゴソ探りながら言った。

 ぼんやりした頭で考える。
 病院行くなら保険証いるなあ……私、保険証どこやったっけ……? てゆうか、こっちの世界で保険証なんかないや……。

「あの……私、病院行かない……」

「はあ? なんで」

「だって……あの……」

 正直に話すわけにはいかないし、かといって今の状態で嘘なんか吐いても、頭回ってないから絶対ボロが出てしまう。

 私が口ごもると、坂田さんもそれを察してくれたようで、ため息をひとつ吐いて頭を撫でてくれた。

「わかった。んじゃ、病院はやめて薬飲んで寝てなさい」

「……はい……」

「薬飲む前に、茜ちゃん何食う? プリンとかゼリーとかアイスとか、いろいろあるけど。今日は先に選んでいいよォ」

「今日は……」

 甘いもの大好きな坂田さんなりの優しさ(?)に苦笑いしつつ、ゼリーを貰った。


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