番外編

□三月:ホワイトデー。
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『銀時の場合』


「茜ちゃーん、3月14日って空いてる?」

 万事屋での晩飯の後、台所で片付けをしている彼女の背中に声をかけた。

「14日? 何でですか?」

「いや、あの、飯でも一緒にどうかなーって」

「ごはん……いいですよー」

「え、いいの」

 あっさり返ってきたOKの返事に拍子抜けしていると、茜はさらに驚くことを言った。

「じゃあ、私の家に来ます?」

「え……ええっ!?」

 3月14日ホワイトデーに、自分の家に男を招くなんて。
 これって普通に考えて、脈ありの女の態度ってやつじゃね?
 いやでも、待て。
 茜ちゃんのことだから、たいした考えも無しに言ってんのかも……。
 ここはうまいこと事を運んでけば、イイ雰囲気に持って行けるかもしれない。
 となれば、余計なことを言って機嫌を損ねないようにした方がいんじゃね?

「茜ちゃん、何時に行けばいい?」

 努めて普通に、極めて笑顔でそう言った。














『総悟の場合』


「茜、14日って空いてやすか? 空いてるだろィ」

「え、決めつけて
るのに最初に聞いた意味あるの?」

 洗濯物を干していた茜の背中に、縁側から声をかけた。
 苦笑いしながら振り返った彼女に、再び問いかける。

「で、どうなんでィ」

「14日って何かあるの?」

「何かって言うか、たまにはメシでもおごってやろうかと思って」

「総悟くんが? めずらしー」

 コイツ……3月14日が何の日か忘れてやがるな……。
 まあ、そういう見返り求めてチョコ配ったわけじゃなさそうだし。

「あ、じゃあさ」

 茜はニッコリといつもの暢気な笑顔で言った。

「うちでご飯にしない?」

「は……」

 その言葉を素直に受けとるべきか、それとも何か意味があるのか。
 ――何も考えてなさそー。
 それならそれで、いろいろとしつけるのもいいかもしれねェなあ。

「んじゃ、仕事が終わったら家に行くわ」

「うん、分かった」

 まずはアレして、その後コレして――
 自分の口元の笑いを隠すこともせずに、俺は上機嫌で見廻りに出掛けた。



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