なりゆきまかせ

□08(後編)
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 銀魂の世界に来て初めての一人きりの夜は、驚くほど静かで、淋しかった。

 明日は真選組の仕事だから、早く寝なきゃと思えば思うほど眠れなくて、暗闇が怖いとさえ感じてしまった。
 こんな気持ちになったのは、小学生になって自室を与えられた時以来だ。

 そんな自分が情けなくて、呆れてしまった。

 ようやく眠れたと思ったら、すぐに起きる時間。

 いつものように午前中はバタバタと仕事を終え、あっという間に昼食の時間。
 今日のメニューは親子丼ときのこの味噌汁。
 お茶を注いで周りながら、近藤さんのいる卓に向かった。

「お茶どうぞ」

「お! ありがとう、茜ちゃん。今日のメシも本当にウマいよ!」

「ありがとうございます」

 近藤さんも他の隊士さんも美味しそうに食べてくれるから、作った甲斐があったなぁと嬉しくなる。
 近藤さんに食べながら聞いてもらう。

「昨日、引っ越しが終わりました。
 携帯はまだ買ってないので、連絡先はまた後日お伝えしますね」

「そうか、分かった!
 茜ちゃんもとうとう一人暮らしかー。
 でも、女の子の一人暮らしなんて物騒だし……お父さん心配で心配で……」

「過保護ですよ、お父さん……」

「小野、メシ頼む」

「御主人様のお帰りだぜィ」

 見廻りから帰ってきた土方さんと総悟くんが、近藤さんと同じ卓に座った。

「おかえりなさい。すぐに用意しますね」

 二人の食事を用意して戻ってくると、丼を受け取った土方さんはマヨネーズをこんもりとかけた……。

「あーあ、茜がせっかく作ったのに一瞬で犬のエサになっちまったなァ」

「黙れ、サディスティック王子。
 小野の料理は俺がちょっとやそっとマヨネーズかけたところで美味さは変わりゃしねェんだよ」

「ちょっとやそっとの量じゃありやせんけどねィ」

 グチグチ言い合いながらも、親子丼をかきこむ二人。
 あんまり表情は変わらないし、美味しいとも不味いとも言わないけど。

 二人の食べる様子を微笑ましく眺めていたら、総悟くんに「気持ちワルッ」と言われた……。

「小野、携帯はもう買ったのか」

「いえ……まだです」

 土方さんに答えながら、総悟くんにアカンベーをする。

「買ったら番号教えとけよ。なんかあった時はすぐ行ってやる」

 総悟くんにほっぺをつままれながら、土方さんに「ありあとうごらいまふ……」とお礼を言った。

「うわあ、下心見え見えだぜィ。さすがエロ方」

「下心なんざねーよ!!」

「まあまあ。トシは純粋に茜ちゃんを心配してるんだよ」

 食事時くらい静かに食べられないのかなーこの人達はと思いつつ、気にかけてもらえたのは素直に嬉しい。

「携帯買ったら連絡します、必ず」

 私がそう言うと、三人はそれぞれの笑顔で応えてくれた。











 仕事を終えた頃には、日もとっぷりと暮れていた。
 もう万事屋の夕飯の心配をしなくていいから、慌てて帰る必要もないから、ちょっとのんびりしすぎたみたい。

 ……本音を言えば、一人きりの家に帰るのが少し嫌だなと思っていた。
 だからといって帰らないわけにもいかないので、そろそろ帰ろうかと玄関へ行くと、着流し姿の土方さんと鉢合わせた。

「土方さん、お疲れ様です」

「ああ。今から帰りか」

「はい。土方さんは?」

「俺も今日は終わりだ。
 あー……煙草買いに行くついでに送る」

「え」

 私の返事を待つことなく、土方さんはさっさと草履を履いた。
 慌てて土方さんを追いかける。

「土方さん、いいんですか?」

「ついでだって言ってんだろ」

 煙草買いに行くついでって言うけど、屯所から少し歩いた所に自販機やコンビニがあるのに。
 私送ってたら遠回りになっちゃうのに。

 ……本当は優しいって知ってる。

「……何ニヤニヤしてんだ」

「いえ、別に」

「ふん」

 土方さんは特に何を話すでもなく、私の他愛ない話を黙って聞いてくれている。



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