なりゆきまかせ
□08(前編)
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「茜、ちょっと店を手伝ってほしいんだけどね」
お登勢さんにそう頼まれて、快く引き受けた。
万事屋の三人には置き手紙をしてから下の店に向かった。
私のスナックでの仕事は主に給仕で、お客さんの相手はキャサリンやお登勢さんがしている。
でも、私も給仕の合間に、常連のおじさん達の話を聞くのが楽しみだったりする。
今日もカウンターで飲んでいる長谷川さんと、今ではすっかり顔馴染みだ。
長谷川さんと他愛ない話をしていると、お登勢さんに呼ばれた。
「はい、何でしょう?」
お登勢さんの隣りには、常連の和菓子屋の旦那さんが。
「茜ちゃん、一人暮らしの部屋探してんだって?」
「はい」
「小林の旦那がね、空き家があるんだけどアンタにどうかって」
「え……」
「うちの叔母が一人暮らししてた家なんだがね、ふたつきほど前に亡くなって空き家なんだよ。
人がいないとすぐ荒れちまうって言うし、誰かに貸そうと思ってたんだが、茜ちゃんなら大事に使ってくれそうだし、格安でどうだい?」
「あ……ぜ、是非!」
突然の話に驚きながらも、小林の旦那さんに頭を下げる。
戸惑い気味の私に、お登勢さんも微笑みかけてくれた。
とりあえず、正式に借りるかどうかは家を見てからということになった。
小林の旦那さんと明日内見の約束をして再びカウンターに戻ると、仕事を終えた万事屋の三人が帰ってきた。
「おかえり!」
「ただいま! お腹ペコペコアル!」
「ただいま帰りました、茜さん」
「ただいまァ」
「お仕事お疲れさま。
お腹空いたでしょ? すぐ用意するね。
坂田さんは飲みますか?」
「おー」
「銀さん、ほらグラス」
長谷川さんは一緒に飲む相手ができて嬉しそうだ。
神楽ちゃんと新八くんのご飯を用意して、坂田さんにちょいちょいと手招きした。
「んあ? なに?」
「あとでちょっと話したいことがあるんですけど……」
「まさか! 茜ちゃんが銀さんに愛の告白かァ!?」
「マダオは黙ってて下さい。
まあ、あんまり飲み過ぎないでほしいなって思って」
「ふうん、わかったー」
坂田さんはたいして興味なさそうに、グラスのビールをぐいっと飲み干した。
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