なりゆきまかせ
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いつものようにパン屋での仕事を終えて私は家路をのんびりと歩いていた。
今のパン屋で働きだして三年。働きだすと同時に始めた一人暮らしなので、多少帰りが遅くなろうと小言を言う者はいない。
今の仕事は嫌いではないけど、毎日同じことのくり返しに少し飽きている気持ちもあった。
ほんの少し刺激が欲しい。ドキドキ、ワクワクするような。
彼氏でも出来れば少しはハリのある生活になるのかしら。
いわゆるお付き合いというものをしたことはあるが、一線を越えたことはない。
自分の初めてを捧げたいと思えるほど、誰かを好きになったことがなかったから。
ほう、とため息を吐いてから、気分転換に少し遠回りして川沿いの桜並木を見ながら帰ることにした。
ライトアップされているような花見処ではないので、通る人影もまばらだ。桜を眺めながら、のんびりと歩を進める。
ヒラヒラと雪のように舞い散る花びら。
「キレー……わぷっ!!」
次の瞬間、突然の強風に襲われ反射的に目を閉じた。
ビュオオオ……と風の音が遠ざかっていくのを聞いて、そおっと目を開けた。
「あ……れ……?」
目の前に続いていた桜並木は跡形もなく消え失せ、代わりに色とりどりの人工的なネオンの光が広がっていた。
「え……? え?
なんなの、ここ。
私なんでこんなとこにいるの?」
キョロキョロと辺りを見回す。ネオンきらめく通りのど真ん中。行きかう人々は皆着物を纏い、中には特殊メイクや被りものをした人々もチラホラいる。
呆然と立ち尽くしていると、通り過ぎる人がジロジロと私を見ていた。
パーカーにジーンズの格好が妙に浮いている。
なんだか居心地が悪くて、「あはは……」と笑って急ぎ足でその場を去る。
キョロキョロしながら歩いていると、周りはスナックやらキャバクラやら、なんだかいかがわしい看板が見える。うちの近所にも帰り道にも、こんな通りはない。
これはまるで別の場所。
まるで、あの漫画の世界のような――
「かぶき、町……」
東京の?
ちがう、ここはやっぱり――
空を仰ぎ見る。
宵闇迫る空に、見たこともない形の乗り物が飛び、天高くそびえる塔が見えた。
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