「うにゃにゃ?」

 うーん、なんか足んない。

 現在位置、岡豊城の端っこの物見櫓の上。見たいのは城下の様子だったんで山のほうもぐるっと見える上のほうの櫓より、ピンポイントなここのほうが都合がよかったんだけどね?
 目の前、に広い広いお堀にぐあぐあどっかからやってきた鴨が気持ちよさそうに。その先が広場っぽいとこ、で両隅(ほんとは四隅+α)の詰所。でその広場に直角に広い道があって両端にお店。ちなみに岡豊城下のつくりってのは変わってて、道幅が結構広い。普通はもっと狭いんだと思ったら、要するに大軍が攻め寄ったりしないように、街道そのものをわざと整備しなかったりするんだそうだ。土佐の場合は主力が木機滅機仁王車なんで、押し出せる広さが必要と。

 と言うわけで広い街道の両脇に並んだ店は、城の近くででかいのが多い。ほんとの端っこは城の出先機関かなんかなんだけど、江戸時代のセットに紛れ込んだ気がする。つまり、時代にしてはやけに立派。なんだけど。

「? 要っつったか? 元親様の猫。元親様が探してらっしゃったがこんなとこにいたのか、早く行って柏餅貰ってこい」
「にょっ! にゃーにゃいにょ!」

 顔だけは知ってる多分忍のお兄さんがひらひら手を振って、いかん敬礼したいけど猫には難しい。そして皆さん猫又の俺になれきってらっしゃって普通に声かけてくれますね。
 影警護でないからいいのか、自分の分の柏餅剥き始めた忍さんに手の代わりに尻尾振って。わーいおやつだ!


 柏餅、はニャンコの肉球あんよでは剥けないので、ずうずうしいけどお殿様にお願いする。でも俺用に元からちっちゃいサイズで作ってくださってるのでうれしいです、アンパンとかでかぶりついて餡子までたどり着けなかったときのがっかり感は異常。
 そして違和感の原因も判明したのに聞くに聞けない。だって今日のお客様、ナリ様が目の前いるからねぇ。

 でも、やっぱり寂しいのですよ、この時期の空に

「にょにゅにょにーニャー……」
「こいのぼり?」

 がないと。ってあ、声に出てた。しかもうっかり訳しちゃったんで、至福の表情でもっちゃもっちゃしてたナリさまが餅から珍しく手を離した。

「こいのぼり? なんぞそれは」
「えーと……」
「うにょにょにょにょ、にゃぐにゃーにゅぐににゃーにゅぐにょにょ……(ry)」

 あのですね、俺が話したことにして適当に説明してもらってもいいですか? とお願いして。きっと俺が話すよりも素敵にきっちりトリビアを話してくれるに違いない、とか思ったら。

「えーと、要君の言うにはこの時期に飾る飾りみたいなもの、らしいですけれど、どの地方でしょうかね?」
「ふむ、鯉は龍に変ずの故事があるゆえ確かに端午の節句には似合いか」

 はえ? 俺のお願いにもお姉さまはしどろもどろ、勝手にナリさまは正解を導き出してるけどなんで……そういやコックリさんで直にナリさまとは意志疎通したこと何度かあるから、この短時間説明で下手に賢いこと言ったらそっちがびっくりか。
 自分で納得しちゃったザ・知将は再び柏餅に手を伸ばして、でも最後の一個なので名残惜しそうに葉っぱを剥がしながら直接俺に質問。なになに? どんなのかって? ほいきた今度は大丈夫だろ。

「にゃにょっ!」

 あった紙、お姉さま描いて!と持っていったらあれ? なんで微妙な顔?

「えーと要くん、その紙杉原紙と言われてるのの低級なやつでして、鼻をかんだりするのに使う専用なの……」
「にょがにゃにゃにょ?」

 低級と言うけど紙にしてはだろうね、だけど紙が今高いはず……鼻〇レブ?と聞いたらこくこくと、うー道理で柔らかいと思った。ティッシュにイラストはきついわな。

「……ふむ弥三郎の忍、筆を貸せ」
「……(スチャッ)」

 おや? ナリさまがピコーンしたようで、どしたん?
 思わずこてりとしたら、小太郎に渡された矢立(どこ持ってたんだじゃなく今回普通に腰。ただし墨の臭いしないからなんの絵の具?)で自分の手拭い上半分ほぼいっぱいにでっかく鯉の絵を描きはじめた。普通に上手だけど、上から見た図なんで鯉のぼりには似ていない。両脇の余白を裂いて紐にして結び付け、あんれ?

「うにょ?」

 なにエプロン? いや腹掛け? なにこれ……

    |
  \ _ /
 _ (m) _
    目   ピコーン
  / `′ \
   ∧_∧
   (・∀・∩
   (つ ノ
   ⊂_ノ
    (_)

「にゃっはっは♪」
「ふむ察しがよいな、こちらに来やれ」
「「?」」

 わかっちゃったわかっちゃった、お姉さま気がついてないけど何させる気か判っちゃった!
 呼ばれて目の前でごろっとおなかぺろーんと、もちろん正解で腹掛けまんま結び付けてくれた。さーて♪

「よし、登れ」「うにゃっ!」
「ちょっ、何やらせてるんですか松寿っ!?」
「…………!(プルプル)」

 はいっ、いちっにっいちっにっ♪ にょこっにょこっにょろっにょろってねん。背中でずりずり鯉の滝登りィ!

 大丈夫小太郎なんかはマジで『wwwww』状態だから、呆気にとられたお姉さまも叱ってるみたいで声は笑ってる。
 そのままにょこにょこぐるぐる移動してたらナリさまの緑の袖が隅っこに見えた。あれ?

 俺の分のミニマム柏餅、取り上げて無造作に剥いた。ちょっw俺のwwwああ食べちゃうんじゃなかった、俺の方に鯉の餌よろしく見せびらかしたんで、高速畳背泳ぎ頑張ってチョーダイする。前足で挟んで受け取ったら抱き上げてくれたんで、ナリさまの膝の上でそのまま座っていっただっきまーす。正直俺の分もバカやらせてる隙に食べちゃう気かって疑ってごめんなさい。

「鯉に劣らぬ食いつきよな」
「要くん気に入ってますそれ?」
「にょっ!」

 温かくていいカンジでっせ、とぐーしてみたら、俺の言葉はわかってないだろうナリさまは『そなたの甥共が大喜びしそうよな』だって。確かに。

 ん? ご馳走さましてから気がついた。そういや否定してないけど、これが鯉のぼりって、まさかナリさま思い込んで、ないよ、ねぇ?





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