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□雨
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本当に鬱陶しい。
肌に纏わり付く湿気も、常に水分を含む制服も…。
サァサァという擬態語がぴったりな雨を見ることに飽きて、隣に座る彼に視線を移す。
また寝てる。
右手で頬杖をつき左手にペンを持つその姿は一見真面目に授業を聞いているように見えるが、その手はまったく動いていない。
それに…。
いつから左利きになったんですか?
教壇に寄り掛かりながら怠そうに授業を進める担任の頭とは対象的なサラサラとした黒い髪が、閉じた目を隠すように垂れている。
こんな雨の日は、無性にソレに触れたくなる。
湿気にべたつく私の髪や普段の二割増しなあの天パのように、この髪も少しは水分を含んでいるのだろうか。
彼の髪が濡れているのは部活後の面を外した時か洗髪後だけなのではと考えて、その色気にあてられてしまう。
ただの想像なのに…。
違うか。
完全な妄想だ。
触りたい。
指で梳いたら気持ち良さそうだな。
それにいい匂いがしそう。
しそうっていうか…絶対いい匂いだな。
小さく身じろいだのを見て、また、窓の外に目を向けた。
嗚呼、本当に鬱陶しい。
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