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□SとMの境界線
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“SとMの境界線”




ついつい突っかかってしまうのは、そうすれば構って貰えると知ってしまったからだ。


可愛げのない物言いを貶されても、傷ついた顔なんか一切見せない。


女らしくない。

可愛くない。

色気もクソもない餓鬼。


最近じゃ何も言わなくてもそう吐き捨ててくる始末。


ふざけんなと言い返すけど、本当は泣きたくなるくらい胸が痛い。


泣かないけど、絶対に。


顔合わせるたびに喧嘩して、でも、間違っても手を出してはこないから…その優しさに苛立ちを感じて余計に当たり散らしてしまう。


だって、知ってるから…。


チャイナ服着たあの娘やドーナツに目がないあの娘とやり合ってるときの総悟は、めちゃくちゃ楽しそうだって。


楽しそうってゆーか、楽しんでる。


わたしと口喧嘩してる時は眉間にシワ寄せてるのに、


本当に楽しそうに笑ってるのだ。


同じかそれ以上の能力を持ったあの娘達が好きなんだろうな。


そう考えて、やっぱり胸が痛んで、泣きそうになった。


泣きそうになるくらいなら構わなきゃいいのに…ばったり会った町中で、会えた嬉しさにテンションが上がって、それを隠すように「今日も給料泥棒か、馬鹿総悟」と声をかけてしまう。


それに嫌そうな顔をして文句を言おうとした彼は、わたしの後ろに目をやって、にやりと笑った。


それがやけに嬉しそうに見えたから、まさかと振り返る。


案の定そこには、チャイナ服着た彼女が銀髪を連れて歩いていた。


だから…これ以上は虚しくなるだけだと、その場を去ったのだ。


俯きそうになるのを堪えるのに必死で、声をかける気にもなれなくて…。


ぶつけた売り言葉は買われることなく宙ぶらりんなまま放置されて、でも、それすらどーでもよくなって、相変わらず彼女を見たままの総悟の側を通り過ぎた。



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