Variety is the spice of life.

□Variety is the spice of life.
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「……死にたくなければ…立ち去った方がお前のためだ」


視界の端に映ったのが危惧していた憎き真選組の隊服ではなく黒い着流しの裾だったため、男は冷静さを取り戻し、名前にのし掛かろうとしていた体勢のままで声の主に言い放った。


一般市民だと思い込んでいたとはいえ、黒い着流しに身を包んだ男とは十メートルほどの距離があったのだ。


にもかかわらず、それは一瞬だった。


浪士が気配に気づいた時には、時すでに遅し。


その胴体と足が離れている事に気づくことなく、最後の一人はたった一人、その場に死体となって転がっていた。


声の主は刀を振り血を払うこともせず、ぐったりとする名前を見下ろしている。


「――速ぇ…」


意識を取り戻した一人の浪士が一部始終を見ていて、血の気の引いた顔で唖然と呟く。


「…おい、名前」


浪士の声に振り返ることもせず意識を失ったままの名前を呼ぶが、土方の呼びかけに答えは無い。


開かれた胸元をジッと見つめて微かに上下するのを確認すると、土方は携帯を開いた。


すぐに相手が出たのか、一言二言話してから漸く顔を上げて辺りを見回す。


「…二十人くらいだ。……ああ…死んでんのはたぶん一人だけだな…。人数多いから輸送車手配しろ。あと、庭に医療班を待機させとけ。指揮は……原田いるか?………じゃあ、十番隊に任せる」


それだけを告げて携帯を懐に仕舞うと、煙草を取り出した。









「……副長が、わたしを見つけたんですか?」


意識を失う前までの一連の事を思い出しながら、視線だけで土方さんを見た。


一度もこちらを見ないせいで、彼がどんな表情をしているのか分からない。


ただいつものように、面倒そうに頬杖をつき、書類を次々と片付けていくだけ。


「素人みてぇなやられ方してんじゃねーよ」


ぶっきらぼうに放たれた言葉に、上半身を起こして睨みつけた。


右肩の傷には包帯が巻かれているが、火傷を負ったような鈍い熱さが感じられる。


「非番で煙草買いに出たんだよ。不穏な気配感じて行ってみりゃおまえが倒れてやがった」

「……でも…どうして、副長の部屋に…」


自分の部屋があるのにと呟いた瞬間、ギロリと睨みつけられ、その鋭さに思わず身を竦めた。






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