Variety is the spice of life.

□Variety is the spice of life.
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――嗅ぎ慣れた匂い…。


そう認識しても強張った身体の緊張は解けなかった。
薄く開いていた瞼に力を入れてパチリと視界を広げると、重たい気分のままに見慣れない天井を睨む。


「…目ぇ覚めたか」


自分から少し離れた所から聞こえた声は耳に慣れたもの。


――ああ…助かったのか…。


そうボンヤリと考えて、声の主の方へゆっくりと首を向けた。


「…副長…何でここに…?」


搾り出した声は思っていたよりも頼りなく掠れて自分の鼓膜を震わせる。


それがまるで今にも泣き出しそうな弱々しいものだったから、ギュッと握り拳を作って、しっかりしろと声に出さずに呟いた。


声の主は真選組副長・土方十四郎で、彼は文机に向かってペンを走らせていた。
視線は書類に落としたままの土方さんがくわえていた煙草を口から離すと、細く吐き出した煙が宙に漂って消える。


「何でって…ここは俺の部屋だからな」

「…副長の、部屋…?…え…あれ?なんで、副長の部屋……」


靄がかかったみたいにうまく働かない頭を回転させて、意識を失う前の事を思い出していた。










日の暮れた薄暗い路地。


それはもう日常となっていた。


理由は分からないし分かりたくもないが、攘夷浪士に絡まれることが多くなった。
多い、というか、最近そればっかりだ。


新撰組唯一の女隊士がいるという情報が連絡網よろしくヤツらの間を駆け巡り、次から次へと浪士がやってくる。


そのことを誰にも話していなかった。


――自分だけで片付けたい。


そう思っていたから。


たかだか一隊士。
しかもただの医療班。


忙しい仲間の手を煩わすことはしたくないと、その日も一人で足りない薬を調達に出掛けたのだ。


日が沈み暗くなったので帰ろうとした時、浪士が大勢現れ周りを取り囲んだ。


薬の入った袋を道の端に置き、うんざりだと溜め息を吐きながら浪士達を一瞥する。


「その隊服。真選組に相違ないな?」

「……さあ、どうでしょうね…」

「あるお方がお前に用がある。大人しく来てもらおうか」


ここ数日の間に何度聞いたか分からない台詞。
いい加減耳にタコが出来そうだと、確かめるように耳たぶを撫でた。






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