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美和子は学校まで続く海沿いの道を自転車で走っていた。
今日はいつもより一時間も早く家を出た。
この時間帯はまだ人がいない。
潮風を感じながらこの道を自転車で走ることが美和子は好きだった。
「気持ちいー……」
目を瞑ると波の優しい音が聞こえる。
そして大きく深呼吸。
少ししょっぱい味がした。
『何で、一人で神奈川なんかに行っちゃったんだよ……、』
『…なんか調子出ねぇんだ、、お前がそばに居ないと、さ…。
だから、やっぱ…寂しい、』
そう言った時の栄治の顔が頭に浮かぶ。
「(あんな顔の栄治、初めて見た…。)」
あの後、美和子は何も言えなかった。栄治もそんな姿の美和子を見て、そのまま何も言わず走って行ってしまったのだった。
瞑っていた目を少しずつ開くと、
前の方にツンツン頭のデカい男が歩いている。
「あ、」
ここからでも誰だかすぐ分かった。
仙道彰だ。
朝早くにまさか仙道を見かけるとは思ってもみなかった。
なぜなら、彼が遅刻常習犯でかなり手を焼いていると越野から聞いていたからだった。
美和子は少しスピードを上げ、そのツンツン頭を追い越した。
「あ、ちょっとちょっと!!」
背中の方から呼び止められる声がした。
美和子はその声に思わず、ブレーキを握るとペダルを踏んでいた足を地面に付けた。
恐る恐る、後ろを振り返ると、さっき追い越したはずの仙道が既に美和子の後ろの座席に跨っていた。
「おはよ、美和子ちゃん。早いねー。」
ヘラリと笑うツンツン頭。
一瞬ギョッとした顔をしたが、すぐに呆れ顔へと変わる美和子。
「あの、重いんだけど…、」
「あはは、だよね。じゃー、美和子ちゃん降りて。チャリンコから。」
「…は?」
「俺がこぐから。美和子ちゃん後ろ乗って」
「え。やだよ、」
すると、仙道はハンドルを握っている美和子の手を自分の大きな手で上から包みこんだ。
「な…っ、何すんの!!」
赤くなる美和子。
「このままだと俺、また朝練遅刻して魚住さんと越野に殺されるんだよー。ね、お願い」
「・・・・・・」
美和子は握っていたハンドルから手を離すと、おとなしく仙道の後ろに座った。
「(あんな顔でお願いするなんてずるい、、)」
と、思う美和子だった。
仙道は美和子の両手を自分の腰に回させた。
「さぁ、いこーか」
そう言って、仙道はペダルを漕ぎ出した。