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――土曜日。
この日、美和子は本屋で一人、店番をしていた。
住宅街の中にポツンと建っている古本屋である。
個人で営んでいて、古本屋にしてはなかなか趣のあるお洒落な店だ。
美和子の叔父がここの店主と友人であり、その関係で美和子を雇ったのだった。
美和子の仕事は基本、レジや棚整理、掃除などの雑務だ。
店主はというと、午後から趣味である釣りに行ってまだ戻って来ていなかった。
「(パパさん、おっそいなー)」
『パパさん』とは釣りに行っている店主のこと。
店内の壁掛け時計を見ると、ちょうど17時を指していた。
土曜は16時で上がらせてもらう美和子なのだが、パパさんが戻って来ない為、上がることが出来ないでいた。
棚整理をしようと思い、店内に出る。
ちらほらと立ち読み客がいた。
出しっ放しにされた本を、元あったところに蔵う。
すると背後から、すみません、
という声がした。
パッと後ろを振り向く。
「これ、お願いします。」
制服姿の長身の男が本を持って、立っていた。