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―2010年春―














美和子は陵南高校の正門の前に佇んでいた。








桜の花びらが美和子の頬をかすめる。







「…よーし!行こ!」




鞄を持つ手にキュッと力を入れ、門をくぐる。







美和子にとって、今日は新しい生活への第一歩だった。
美和子は家庭の事情で、秋田から神奈川へと一人で移り住んできたのだった。





職員室に入ると、先日転入の手続きをしに行った時に挨拶した黒川がいた。

黒川は教師になって二年目。今年初めて、2年7組の担任を受け持つことになり、美和子は黒川のクラスになった。




「あら!咲良さん!来たわね〜!おはよう!!」


黒川は美和子に気付くと満面の笑顔で迎えた。



「おはようございます。
宜しくお願いします。」




美和子は一歩前に進み、職員室に居る教師たちに深々とお辞儀した。













美和子は黒川と一緒に2年7組の教室に向かう。



「(何か…緊張してきた…)」

美和子はこれから始まる新しい高校生活にワクワクする一方、心細さも感じていた。


「咲良さん、緊張してる?」

そんな美和子を見て、うふふ、と笑った。


「え、あ…はい、ちょっと…」

そんな美和子の緊張をほぐそうと黒川は、大丈夫大丈夫。と笑顔で言った。










「あそこよ。」



階段を上り終え、黒川が指差した方を見ると、【2−7】の札が下がっている教室が見えた。


黒川と美和子はその教室の前で立ち止まった。
教室の中からはざわざわと話し声が聞こえる。


「心の準備はいい?」

黒川は美和子の顔を覗き込んだ。
美和子はコクリと頷いた。

じゃ、行きましょうか、と言うと、黒川は教室の扉を開け、教室の中へと入っていった。
美和子もその後ろに続く。



「はーい、席着きなさーい。」

黒川がパンパンと手を叩くと、一斉に席に着いた。

黒川は教卓に出席簿を置く。



「じゃー、ホームルーム始めます。」

クラス中の視線は美和子にすべて注がれている。

すると黒川は、黒板に白いチョークで『咲良 美和子』と達筆な字で書いた。



「みんな、転校生紹介するわね。
咲良さん、簡単で良いから自己紹介してくれるかしら」




黒川は隣にいる美和子に言った。


美和子は頷くと、真っすぐと顔を上げた。

「咲良 美和子と言います。秋田から来ました、宜しくお願いします。」

黒川に言われた通り、簡単に挨拶を終えると、ペコっと頭を下げた。
みんな拍手をしてくれた。









席は窓際の一番後ろ。
外に目をやると丁度、海が見える場所だった。
良い席だった。




ホームルームが終わり、黒川が教室から出て行くと同時に、美和子の前の席の女の子が振り向いた。

「私、沢村萌子。咲良さん宜しくね!」

萌子はニッコリと笑った。

「うん、こちらこそ宜しく。」

「(太陽みたいに笑う子だな…)」と、美和子は思った。





美和子と萌子はすぐに意気投合し、仲良くなった。
人見知りしやすい美和子は友達が出来るか不安だった。

しかし、萌子は誰とでも仲良く出来る、人なつこい性格で人柄もよく、萌子の周りにはいつも笑顔が絶えなかった。
そのおかげで萌子と一緒にいた美和子も、クラスのみんなとすぐに打ち解けることが出来た。

    






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美和子が陵南高校に転校してきて、ちょうど一週間が経った。

今は昼休み。
美和子と萌子は屋上でお弁当を食べていた。
天気の良い日は大抵、屋上で昼食を取っている。



「美和子、学校馴れてきたー?」


そう言うと、萌子はパクリとウインナーを口に入れた。

「うん、萌子のおかげで。何かね、毎日楽しいんだ」

美和子がそう答えると、萌子はえヘへっと嬉しそうに笑った。

美和子と萌子はお昼を食べ終わると、手すりに捕まってグランドの方を見ている。
グランドでは男子がサッカーをして遊んでいた。

「ねね、そう言えばさ、美和子って部活とか入んないの?」

いちごオレを飲みながら萌子が尋ねた。



「んー、、今バイトしてるからなぁ」




美和子は手すりを持ったまま、後ろに仰け反り言った。

美和子は神奈川に越してきてすぐに、自宅近くの本屋でアルバイトをしていた。
学校が終わってからと、人手が足りない日曜日にたまに入ったりしている。



「そっかー。じゃあ陸上部はだめかぁー」

萌子は陸上部に入っていた。そして時期キャプテンと期待されている。



「とんでも無い!運動部とかあたしには無理!」

ブンブンと大げさに手を振る美和子。
その姿を見た萌子は、あははっと笑った。



「美和子、頭は良いのにねぇ〜。運動神経の方は…プププ」

萌子がわざとらしく、笑いを堪えるように言った。

「な、何よー」

そんな萌子を見て、美和子はほっぺを膨らませながら、萌子の肩を叩いた。
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