Past

□いつの間にかプラチナ会員 三成
1ページ/1ページ



「しかし、これほどまでに便利だと驚きを通り越してしまうね」玄関ホールから歩いてきたのは半兵衛だ


ちょうど宅急便が荷物を届けに来て半兵衛が受取ってくれたのだ
両手で抱えるようにして持っていたダンボールを、「ふぅっ…」と小さく息をついてガラステーブルの上に置いた


「半ちゃん、ありがとうね」ウキウキとダンボールの梱包テープをはがす彼女

確か昨日は、タンスと本棚が届いて…小太郎くんと三成くんが運んだんだった
僕達の服も増えたし、僕も、三成くんも元就くんも本が好きだから棚が足りなくなったんだ
彼女は開封した箱から橙色の鍋を取り出して上機嫌だ


「届いたのはそれかい?」


「うんっ、これさ、お料理する時、便利やねんで?蒸すのと炊くのん同時に出来るし…」



…正直、料理をしない僕にとっては理解出来ない範疇ではあるけれど、彼女があれだけ喜んでいるのだから、それで良しとしよう
鍋だけでなく、僕達の服や靴、それに彼女自身が使うらしい化粧品等が、毎日その内容を変えてこうして届けられる


『ひとつだけあれば事足りるじゃないか』


と、思わなくもないのだけれど、無邪気に喜んでいる姿を見れば強くも言えないしね



「…それは何だ?」三成くんが2階から下りてきて開口一番そう問うた


「うっ…みっ、みっちゃん」慌てて鍋を後ろ手に隠したけど、とてもじゃないが隠し切れていない


三成くんの片方の眉が上がって


「貴様…また無駄な買い物をしたな?せっかく片付いたのに、そんな物をどこに置くつもりだぁ!?」


「ヒッ…む、む、無駄ちゃうもん…これ、すごく便利でっ、お料理の時間短縮にもつながるしっ」


レ、レミパンって言うねんけど、こうやってこっちで蒸して…その間にこっちは違う料理が出来て…


そんな風に彼女は必死になって三成くんに説明をしているけれど…
彼女を見つめる(睨んでいるようにみえる)三成くんの眼光に耐えられなくなったのか、黙りこくってうつむいてしまった


「ひっ、必要な物と不要な物ぐらい…分かるだろう」


黙ってしまった彼女を見て、側から見てもわかるぐらいにうろたえた三成くんはそれ以上、彼女を責めようとしなかった
この子は言い方はきつかったりするけど、存外に優しい、誤解を受けやすいのがちょっとかわいそうだけど


その時、ピンポーンッとインターフォンが鳴った


3人は顔を見合わせた

「私、出てくる…もう荷物ないと思うんやけど」


しばらくして戻ってきた彼女の手には大きめの封筒、その宛先を見て震えている


「どうしたんだい?」彼女の見ている先を追ったら、宛先は彼女の住所で受取人は、石田三成

納品書を見たら



『戦 国 鍋 T V〜なんとなく歴史が学べる映像〜』



「・・・」

「みっちゃん…これ…」ぷるぷる震える手でそのDVDを手にした彼女


「…必要な物だろう?」三成くんは顔色も変えず言ってから、いそいそとパッケージを開けて心なしかご機嫌な様子だ
リビングのテレビの前に陣取って、ソファに座ってた元就くんに話しかけて「またか、貴様は飽きぬのか」と呆れ返らせている



『心にちーかうー、秀吉へのおーもーいー』
『信長なーきあと、ライバールは、勝家』



ややあって、画面から流れてきた音楽を聞いた彼女は、大きくため息をついてから



「なぁ、半ちゃん…ものっそい理不尽に感じるんやけど私」

「ああ、キミの気持ちは痛い程わかるよ…三成くんの代わりに僕が謝罪する」



『倒せば天下さー、僕らの槍でーかーなーえーよーうー』



そこでリモコンを持った三成は器用に巻き戻しをして、最初から歌を聞き始める


「どんな流麗な和歌よりも、優れた歌だ…」三成は周りにお構いなしに、うっとりと聞き入っている


シズガタケの七本槍…か


気に入って聞いているものの、三成と仲悪い人らもおるのになぁ…と、ツッコミを入れたい気持ちを抑えて私は立ち上がった


そばにいた半兵衛に気がついた三成は、「こちらには半兵衛様に扮している者が歌っている映像もございます」と、喜々として説明している


「いや…兵衛'zは…僕は遠慮するよ、三成くん」

「もうっ…あんまり何回も流さんといてよっ、頭に残って離れへんやんかっ」


人数分のお茶を用意してリビングに戻れば、先程の歌がエンドレスで流れている

うんざり、といった表情の小太郎が黙って何度もうなずき、元就が何とかして三成からリモコンを奪おうと試みているがかわされている


ケンカにならないのが不思議だな、と思う
それぞれが尊重しあっている、と言えば良く言いすぎかもしれないが…


彼がお金の管理をしてくれるようになって、無駄遣いは減った方だと思うけど、必要な物は必要だし

今回の買い物も、決して無駄な買い物ではないと思うのだ


このDVDを無駄かどうかと判断するとしたら…


キラキラした目で画面を食い入るようにして見ている三成を見てから笑いがこみあげた
私の買い物に、いちいち難癖つける彼に、いつか言ってやらねばならない
私だって、いつも衝動的に無駄遣いしてるんじゃない、と



.
2010.12.17

以前、長編連載の三成による「楽天」発言に対してコメントを頂いた折に
ボツネタ、とお返事してしまったのですが、私の思い浮かんだネタが
マニアック過ぎるのでは?、といった不安からボツにしていました。
今考えたら誤解を与えたかもしれないー、重ね重ねごめんなさいっ<忍月さま

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ