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□Behind The Mask 懐古
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「めでたい話だよっ、恋が成就するってのは2人が幸せになれるんだから」

必死で笑顔を取り繕ってはいるが、よくよく見れば彼の瞳は充血している…昨夜は、きっと眠れなかったのだろう

厨の者に預けておいたぞ、と言いながら、のっそりと入って来たのはもう一人の来訪者だ

「ああ、秀吉。世話をかけたね」寝着の上から羽織物をかけて起き上がろうとしたら、慶次くんが慌てて僕を止めた

「半兵衛、まだ寝てろって!猪は逃げやしないからさ」ニッ、と無邪気に微笑むと彼は立ち上がった

厠へ行ったらしい慶次くんを確認してから、僕は口を開いた


「秀吉、おめでとう。心から祝福するよ」


大きな体を狭そうに縮こめて、きょとん、とした表情をしていた秀吉の顔がうっすらと赤く染まった



物心ついた時から僕達3人は、いつも一緒だった、但し、僕だけが体弱くて幼い頃からこうしてよく寝込みがちだったのに比べて、
秀吉と慶次くんは健康そのもので、今日だって2人で猪狩りに行った帰りなのだ

そして、僕達のそばにいつもいた、ねねくんと秀吉が恋仲になった…2人はとても仲睦まじくて人も羨む程だった
しかし、慶次くんも彼女に対して恋心を抱いていた、それは僕も秀吉も知っている


慶次くん流に言えば、「友達の幸せは俺の幸せ」といったところかもしれないね
でも、僕にはそんなの到底、理解出来やしない…恋焦がれる女性を他の誰かに譲るなんて、僕には出来ない

戻ってきた慶次くんが太陽のような笑顔で秀吉の盃に酒を注いでいる
その笑顔には、偽りや翳がまったく見えやしない…むしろ眩しいぐらいだ


どうして、キミはいつもそうなんだ?
どうして、そんな笑顔でいられるんだ?


ぼんやりと敷物を握っていた自身の青白い手を見つめていて、はた、と答えにたどり着いた


僕は太陽に憧れても、決してなれやしないんだ
自分の体を呪った事なんて数え切れないぐらい経験している…



せめて、もう少しだけ丈夫ならば、もっと夢を見る事が出来たかもしれないのに



けほけほ、と咳き込んでいたら秀吉が大きな掌で僕の背中を撫でた

「半兵衛も時間の問題じゃないか?」
顔を上げたら、慶次くんが何とも言えないニヤついた笑みを貼り付けて、ずずいっと身を乗り出してきた


「秀吉とねね程じゃないけど、長い付き合いになるんだろ?」


ああ…慶次くんは彼女の話をしているのか、と、僕はそこで気がついた

例えばの話だ…もし、彼女が秀吉に娶られる、なんて事になれば、僕はどうなるかわからない…それは相手が慶次くんでも同様に、だ


僕は、自分自身の手で自分の夢もつかめない人間だ
だから、キミみたいに友達の幸せまで願う余裕なんてないのだよ
愚かで醜い人間だと、自覚はしているつもりだ


慶次くん…キミは僕にとっては本当に眩しすぎるんだ


「僕の事はどうだっていいじゃないか。今夜は秀吉とねねくんのお祝いをしよう」


ああ、僕はなんて意地の悪い…一瞬、慶次くんの笑顔が歪んだけれど、彼はすぐにそれを取り戻して


「そうだな!今夜は飲み明かそう!」彼は、折れ曲がりそうになった自分を元気付けるかのように大きな声を出した


「…キミはまったく…」僕は両の耳を押さえて、心の中でこの太陽みたいに眩しい友達に『ごめんよ』と、謝罪した


「慶次よ、半兵衛の体も癒えてはいない。今夜はほどほどにしよう」
その逞しい体躯に似合わず、秀吉は細やかな気配りも出来る


「ああ、でもさっ、俺達、お前の事を祝いたいんだ」と、慶次くんは引き下がろうとしない


いつの間にか僕まで巻き込まれている…でも、不思議だ、不愉快な気持ちになんてならないんだ


大きな体をした2人の友達は、今日の狩りや、その前に行った越後の話をおもしろおかしく聞かせてくれた
彼等と一緒に行ったわけではない僕も、話を聞いていたら、まるで同行したみたいな気分になって
知らず知らずの内に、仮面の向こうの僕の顔はほころんでいた



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2010.12.8

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