Alice? -long-

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Shall we donce?




「貴方が帽子屋ね?」



大きく開かれた扉の影に女はいた。
気配を消してはいない。
いや、消す気もないようで対峙する。



「…これはこれは。国王陛下
 城を出ちゃ怒られてしまうのでは」

「出てはいないもの。まだ城の敷地内よ」

「そうですか。…じゃあ俺は」

「ちょっと待って」



美しく妖艶な笑顔を見せる。
帽子屋は背に冷や汗を流しながら苦笑いを返した。

さっきから嫌な予感がする。



「君にお願いがあるのよ」



ああ、やはり。思った通りだ。
美人な女ほど面倒なことに巻き込む。
仕様がなく、なんですかと聞けば
またとびきり美しい満面の笑みが。









「チェシャ猫、手伝え」

「…帽子屋さん…?
 どうしたの何か変な物でも食べ」


パァンッ
銃の発砲音が公爵家に響いた。
相当、イライラしていたらしい。
一発目は弾を入れてはいなかったのだが
公爵夫人にはしっかりと怒られてしまった。









「…帽子屋と何の話をしていたのかね」

「聞いていたの?」


隙あらば体をなで回す手を避けて
彼の膝から降りる。
男は少し眉を寄せたが今は話に集中する。


「…何を、話していたのかね」

「珍しいですね。…嫉妬かしら」


マントの裾を持ち
くるくる、くるくる、と回る。
ふわり、と揺れるスカートからは四肢が見え隠れ
…なんだかとても楽しそうだ。


「そうだと言ったら?」

「申し訳ありません。
 安心して、浮気じゃないのよ」


だって私は国王陛下だもの

ピタリ、と足を止めて呟いた。
座っている彼より立っている私は大きいから
彼の機嫌の悪そうな目は上目遣いで少し可愛い。


「…はぐらかすのは止めろ」

「きゃ、」


腕を引かれて前のめりになる。
キスをするくらいの近さ、
…そんなに怒らせてしまったのだろうか


「言いたいことがあるのだろう」


驚いて目を丸くする。
バレていたなら話は早いのだが…


「可愛くおねだりができたら
 考えてあげよう」


このドSを靡(ナビ)かせるのは骨が折れるの。

まったく、お盛んなのは良いけれど。
私に求めるのはやめて欲しい…男は嫌い
分かってて触れてきて嫌な顔をすると喜ぶドS
…ドMと違ってやり返してくるのが穴。








♪〜♪♪〜
アハハ…カチャカチャ、フフ…コツコツ…アハハハ


ドレスコードはinformal
トランプ達は足元を晒して踊る踊る。
美しい音楽はピアノとヴァイオリンの旋律。
料理はケーキ、雄鶏、ワインまで
綺麗に並べられている。

あの人はどこにいったのかしら。


「…あら、帽子屋さんじゃない。
 てっきり来てくれないかと思ったのに」


帽子屋は
下ろし立てのダークスーツを見にまとっていた。
髪も結い上げてトランプ達が後ろに群がっている。

面白くて仕方がない。さっきから。
          `````

「くそ、気付いてたくせに助けもしない…
 本当に性格の悪い女だな!」

「いくら無礼講でも失礼ね。
 おしとやかなレディに対して」

「生憎レディなんて俺の前にはいないが」


腕に絡み付くトランプ達の腕を払いのけ
早口に文句を言う。
眉間に皺のよった怖い顔は
彼女たちにとって何も支障は無いらしい。


「いやぁ随分と盛大なパーティだよね。
 僕も忙しいったら、ねぇ帽子屋さん」


いつの間に、いたのだろうか。

片手にお皿を持っていつもの赤みがかったスーツに
黒のシャツ、白ネクタイを締めたチェシャ猫がいた。

…馬子にも衣装という日本の言葉が過る。


「…お前、あとで殺すからな」

「帽子屋。私が呼んだのは公爵夫人だけよ」

「勝手についてきちゃったの、ごめんなさい国王様」


彼の背から出てきたのは大きなホールに
不釣り合いな小さな少女。

…可愛い…

ピンクと白に彩られたショートドレスが似合ってる。


「謝らないで。視界に入れなければいいことだもの」

「酷い…まだ女王様にバレた件怒ってるの?」


無視、というか許す訳がない。
この男のせいで滅茶苦茶にはなった…

私の心が。



「お招き頂いてありがとう。凄く素敵なドレスね」

「ふふ、ありがとう。夫人も可愛いわ」

「あれ、無視?帽子屋さんも何か言ってよ」

「うるさい。話しかけるな俺には見えない」


スタスタと人の間を
巧くかわして何処かへ行ってしまった。
そういえば、見えない設定か。
相変わらず無茶なルール…




「国王陛下」




耳に特別響いた声。
彼に呼ばれた、私の名前

ホールの音が止む。
これだけの人がいても話し声なんて無い
彼の元へ向かう私の靴の音だけが響く。




コツ、コツ、コツ、コツ…





誰もが息を飲んだ。





「新しく不思議の国へと来た私のハートの王様に」


「皆、歓迎の意思を」



「この舞踏会で精々我々に見せてみたまえ」



ワッ、と歓声が上がる。
踊り出す男女も楽しげに話す少年少女も
花を国王へ差し出す。
赤い花は一輪も無いし薔薇も白やピンクばかり。
噎せかえる花の香りも今日だけなら我慢できる。

私を迎え入れてくれる。
このホールは嘘つきがいない
私を見ている見てくれる



「…似合っている流石、私の国王だ」

「貴方の私じゃないですわ」

「私のものだよ。今この瞬間から」


手袋の上にキスをされた。

いつもの女装じゃなくて、
長い腰巻きはあるけれど紫に近いダークスーツが
目の色と似ている印象的だった。
低いヒールの彼の靴はいつもより距離が近く感じる…


「私はパーティがしたかっただけなのよ」

「お披露目を近々する予定だったのだから丁度良い」


くっついてきても離れる気が起きないのは
今日は気分が上がっているから…
見つめあえば額に、頬に、キスをされ。
嫌じゃないのはパーティだから…

そうでしょう?








「おいで」








私は私に伸びる彼の手を取って


くるくる、くるくる踊るの。






そうして曲の終わりには


彼女の唇にキスが降ってきました。







「綺麗だねー女王様も国王様も美人だから」

「…両方とも性格に難があるけどな」

「国王様にお仕置きされちゃうよ〜紅茶で」

「あ、窓に花が…」




置いてあったのはポインセチア。




「…誰だ?命知らずは」

「誰かしら…あとで国王様に言ってみるけど」

「よりによって赤とは、な…」




「(それは彼の、少しの反抗心かな)」







「喜んで。私が代わりに育てるわ」

「ありがとう、公爵夫人」




「(…ありがとう、白ウサギ)」






くるくるくるくる
回る秒針。
でも時間が刻まれることはなくて。


秒針だけが
くるくるくるくる
回って回って

ごとん、

針が外れてしまいました


少し、直すのに時間がかかるのです。
だから
私と踊って待ちませんか。



S h all we d an ce ?



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