kurobasu -long-


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「先に出て待っている」

「おー」




ガチャ




「あれ、木下先輩」





古橋と山崎が部活の終了後に着替えて部室を出ると
ちょうど部室前に着いたばかりという先輩がいた。




『え…もう着替え終わった!?』


「…全員着替えは済んでますが」


『花宮くんの着替え見たかったのにー…残念』




委員会が長引いた性だ、と嘆く彼女。
俺達は2年に進級し
この人は3年生で生徒会の副会長になった。
なんとなく皆そうなるだろうと予感し期待していたことだ。

どうやら外で待つことにしたらしい先輩が背を向けたとき
強い風が吹き、桜の木が揺れ、ざああと音を放つ。




「お、先輩髪に花びら付いた」


『取って取って』




山崎が手を伸ばした刹那
横をすり抜け、後ろ向きの先輩を捕まえる人影。
ほんの一瞬のことで
瞬きすれば次に蹴りが山崎へ向かった。




「うおっ!?っぶねーな!花宮!」


「人の女に触ろうとして文句言うなバァカ」


「あ゛ぁ!?」




人影とは、他には無い花宮のこと。
そして蹴りを入れたのも言わずもがな彼。
非情にも何も悪いことなどしていないはずの山崎だが
友人で一部始終を見ていた古橋は目をつぶり
冤罪を証明すべき女はすっかり自分を抱擁する男の虜である。




『部活終わりの花宮くんの匂い、素敵』


「アンタは簡単に触らせんなバァカ」


「諦めろ山崎」


「…ったく」


ガチャ


「うっわ〜暑苦し」


「林檎さんだ」




ぞろぞろと揃うバスケ部のメンバーは
仕様が無い事だと最早開き直って見守る。
歩き出す、この光景は目に慣れた。


この2人はお互いがいないと成立しないのだ


そう思い知ったのは、冬の、あの日。
不安定で依存して盲目で馬鹿で
それでいて臆病でプライドが高かった。




『ねぇ花宮くん、腕組んでいい?』

「好きにしろ」

『今日は泊まってもいい?』

「駄目…な訳ねぇだろ?」




信じて、嘘をつかないで、相手を見たら
こいつらみたいに笑えるんだと知った。

目の前で行き交う会話を耳に入れながら
帰り道が同じでも空気を読んで別の道を歩き去り
普通に自分の帰路につく者も、減ってゆき
2人で帰らせるのが俺達の無言のルールになった。















前は否定されるのが怖くて手を繋ぐのも勇気が必要だったのに
今では…ううん今でも緊張するけど大丈夫と思える。



『気、使わせちゃってるね。皆に』



分かってる。
私だって彼だって馬鹿じゃない
あの日から彼らの私達を見る目が変わった。



「あいつらが勝手にやってんだ」



それだけ自分達が荒れて心配させたと痛感される。
何気なく言ったような彼の言葉でも
横顔を覗けば呆れているのか照れているのか。


皆に感謝してるんだよ、絶対に言わないけど




『私、花宮くんの彼女だよね』

「ああ」

『…大好き』

「ふざけんな」

『え』




ぴたりと止まる足



不機嫌な君の顔





驚きで開いた私の口を






閉ざすようにがぷりと噛まれた唇






「“愛してる”じゃなきゃ許さない」





(っ大好き、愛してる!)


(誰のことを)


(…“真”のこと)


(ふはっ上出来だよ)
(林檎)



((愛してる人の隣にいる幸せ))
((人生は嘘の1つで変わってく))



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