kurobasu -long-


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いきなり問い詰める気は最早無かった。
十分落ち着いたし冷めた。




事実として林檎は俺の家に来たんだ

なら問題なんて1つも無い。




『…く、ぅ…っく』




部屋に通していきなり泣き出したコイツを見て
“ああ、綺麗だな”なんて最初に思った。
俺のことしか考えてない、俺のことしか見えてない
それが木下林檎という女。


泣きじゃくる目の前の女を床に座らせて
只見つめあう。


きっと昨日はずっと泣いてただろう

扉を開けて直ぐに気付いた。

目尻が赤くて化粧なんか意味を成していない



目を離さない。もう逃げない。答えは出ている。



思えばコイツはずっと自分と向き合おうとしていたのだ



『は、なみやく、』

「…何」



図書室で置いていったときも
昨日の水飲み場で手を払ったときも
廊下や教室で無視をしたときも

いや、もっと前からだった

彼女が俺に“愛”を囁くときは

いつも



泣きそうな顔で小さく笑うんだ。




『健太郎くんとの、関係、濁してごめんなさい…』




今日は違う、
ガキみたいにしゃくりあげながら
そこそこ良い顔もぐしゃぐしゃにして




『私、でも、嘘吐いても、』


『嫌われちゃうとしてもね、』




本当に優しく、耳を撫でるような声で
俺の名前を言う。



『花宮くんに考えて欲しかったの、』






縋りつけばいいのに






『私のこと、少しでも気にしてくれた…?』






いつも、俺にされてばかりで







「…健太郎はお前の何」



再び息の乱れる彼女の返答を待つ。
彼女としては俺が応えないことにも当たり前のように
自嘲気味に微笑んで何度か大きく呼吸をした。















『………従姉弟なの』

















「…は?」

『私の、母の兄と健太郎君のお母さんが…結婚されて…っ』




なんて、馬鹿らしいのだろうか。

こんな茶番が存在するのか。




「っふは…」

『、え』




こんな事で彼女は涙を流した

こんな事で俺は振り回された



なんという事だろう




「はーぁ…策略にまんまと嵌るとか本っ当、胸糞悪」



『花宮くん…?』




これで全部終わりだ。




「来い」

『ぁ、え?』

「チッ…まあ今はいいよ」




目の前の彼女の腕を引く。
自分の肩に乗る林檎の顔がゆっくりと上を向いて
目の前に顔、元々が薄化粧で良かったな
濃くしても全然大丈夫…ではないが、まだマシである。




『こ、の状態、何…』

「お前、本当に俺のこと好きか?」

『!、好きだよっ』

「それで気付かないとか馬鹿じゃねぇの」




俺も棚にあげてるけどな。

だけどコイツだって言うまで、言われるまで、

気付かないんだろう。














多分、最初っから愛してた


あとは、2人で溶けるだけ。







(は、ぁっ…はな、み)

(…なんで泣くんだよ)

(分かんない、けど、うれし…)

(嬉しいなら泣くな。嫌いだよ、その顔)

(ひあ、ぁ、)




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