kurobasu -long-


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私のような女は“あの男”から見れば
格好の餌だったのでしょうね。





私の心を根こそぎ巣食ったあの笑顔も計算かしら。



私が男子バスケ部レギュラーに在籍する男と
付き合っている情報は最初から知っていただろうし。







でもね、
簡単に餌を食わえられると思ったのは間違いよ。







「林檎先輩、
 確か副主将とお付き合いしてるんですよね」

『よく知ってるね』



花宮 真。“あの男”の名前


どうやら彼が出る試合は必ず負傷者がいるらしい。

一週間前の出会いから色んな事を後輩に聞いた。

バスケをやっている後輩たちは
格好良いけども近付きたくないと言い
やっていない人達は噂に耳を傾けながらも
密かにファンを募っているそうだ。



「直接聞いたんですよ。“手を出すな”って」

『…じゃあ退いてくれない?』



彼が私を部室に呼んでいると言われ
やってきたら誰もいない…
直ぐに校舎引き返そうとすれば
花宮真にベンチへ押し付けられた。



「つれないなぁ…もっと力抜いてくださいよ」



ぐっと馬乗りの状態から腰を折って
顔が近付けられた、耳元に花宮の口がある。



「先輩、俺のこと好きだろ…?」



彼の本当の口調。
悪どい、あの時の笑顔。



ゾクリと体の芯が震えた。
体に触れる君の指も、体も熱い。





…このまま、オモチャになる?





『先輩、お話があるんですけど…』

「ん?言ってみろ」



…そんなの



『ねぇ、花宮真。』

「何です?」

『化けの皮、剥がさずに頑張ってみてよ』

「…はぁ?」




…私だけなんて嫌に決まってるじゃない?




「やってくれたね。林檎先輩」

『何の話?私、彼の所に行かなくちゃ』



グ、と腕を掴まれる。
蝉の声が耳につき、集中出来ない。



「引退する先輩達と3on1で勝てたヤツが次の主将?
 ふはっ…ふざけてるな」


『フフ…もしかして、勝てなかっ』



散漫になっていた思考が止まる。
不意に唇を奪われたからだ。

長い、長い深くて立ってられない。



「ナメんなよ?予定外な事しやがって…」



言い終わったと思えば直ぐにキスの雨。

怒っている声、でも顔はアレ。
頭を髪ごと痛いくらい掴んで腰を支えてくれる。



あぁ、もう…




「お望みならメチャクチャにしてやるよ」




君に頭が集中している。





『最近、あなたの友達練習に出てないよね大丈夫…?』

「…先輩、私に聞いたって言わないでくださいね」

『…うん』

「部活辞めたんです…花宮真に言われて…
 余計な事を言うなって…」



彼女も次の週には居なかった。





「別れないか」

『…どうしてですか…?』

「他に好きな人が出来たんだ…
 だけど、林檎のことは…」



長ったらしい言い訳に無心で窓の外を見た。

視線を感じたから。





私を見ていたのは、彼。
嬉しそうに笑っちゃって。

メチャクチャに、なんてなってないのに。


元から無くても良いものが
本当に無くなっただけの事だもの。



それに気付かないで楽しそうに笑う君
満足そうに歪む口
優しく口付けてくれる唇
その独占欲とサドスティックに染められた思考


全部私にください。




私も貴方にあげるから。







「林檎先輩、別れ話?」

『花宮くんの性なのに』

「はっ、意味分かんねぇ」

『…大好き、愛してる』

「本当に意味分からないな。黙ってろ」



(誰もいない資料室)

(このまま一緒に溶けてしまいたい)


(私達が付き合う3時間前でした)




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