kurobasu -long-


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「林檎先輩、知ってますか?」



『何を?』




今から約1年ほど前の日だった。
2年に進級して引退した先輩たちに薦められ
女子バスケ部レギュラーの座をとれた。



「今年の男バスに無冠の五将が入ったらしいんですよぉ」

「それも、あんまり良い噂がない人らしくて」



全く知らなかった訳ではない

部長と簡単に話した気がするし。




基本的には興味が無かった。





でも、
その無関心は数ヶ月が経ったある日崩れ去った。



ダム、



今年、引退する男子バスケ部のレギュラーの先輩と付き合い始めた。


考えて見れば、あの人を
好きだったかと聞かれれば嘘になる。


しかし気まぐれではない…
普通に嬉しかったが愛が無いだけだった。







自分の部活が無い日は彼を待った。

付き合い始めて、初めて体育館前で待った。
心踊る何とも言えない気持ちで待った。




ギ、キィ…



重そうに開いた扉の音に
やっと終わったかと振り返る。





違う

彼じゃない。






見たことのない…1年だろうか。
二段ほどある段差の先、扉の前に立ったまま動かない男。



「あァ…木下先輩ですか?」



想像より明るい声で呼ばれた自分の名。

直後、強い風が吹いた。
私の髪も彼の髪もなびいて視界を塞ぐ。









掻き分けた刹那の視界で見えたのは




男のひどく歪んだ笑顔だった










「もうすぐ部活終わると思いますけどね」


『、そうなの…ありがとう』



…見間違えか?

そう思うほど一瞬の出来事。




身の毛がよだつ、あの笑顔…






風がサワサワと髪を揺らす。
気付けば男は体育館の中へ戻っていた。




いつの間にか、
男子バスケの部活は終わっている。

いつの間にか、
帰り道一緒に彼が歩いている。

いつの間にか、
私は自分の部屋にいる。







他の事を気に止める気も無くなるほど


私の心の底に巣食った
 “ あの男 ” の 笑顔 を


恐ろしいと思った事に気付けば
体が小刻みに震えた。












彼と出会ったのは
雨の降りだしそうな曇りの日でした。












(木下 林檎先輩、ね…)


(中々使えそうじゃないか)





(もしかしてアレが無冠の五将?)


(あとで1年に聞いてみようかなぁ)




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