Alice?1


□こんなはずじゃ
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「ねえ、女王陛下?」





ある昼下がり。


綺麗なブロンドの髪を腰まで伸ばした
フランス人形のような少女と

美しい黒い髪に薄化粧をしている為
端整な顔立ちが際立つ男が

テーブルとチェス盤を挟んで向かい合っている。




「なにかね?」




「私、結婚するかもしれないの」




細く白い指が黒の騎士の駒をとり、
進む。
どうぞ?と首を傾げた少女が
あっさりと言った言葉。

男は珍しくも目を丸くした。




「…申し込まれたのかね」




低めの声が聞こえる。
彼も白の騎士の駒を進めた。




「そう。前から好きだった…って。
 いきなり結婚なんて、ねぇ?」



どんな答えを求めているかは分からないが
彼女は眉を下げて困った様子だった。


男の眉間にはより皺が寄る。


コツ、と別の黒の騎士を動かし
また彼のターン。



「…受けるのか?」


「決めてないわ。でも…

 今決めないと婚期を逃すかもしれない」




つまり、受けるということ。


彼女の、幼い顔が”女“になる。

見惚れてしまうような、艶やかな表情。






(この顔を他の男が見る?)

込み上げる苛立ち。
だが、気付く。
彼女が話を話題にあげてから目が合っていない。





「有り得ないね」


「…はい?」




コツ、白のクイーンの駒がキングの側へ。



「チェスの相手である君がいなくなると困る」


「別に結婚しても…たまには…」


「次は君の番だ」



一気につめられた距離。
逃がすように黒のキングを移動させた。



「たまに、では駄目だ。
 毎日でもしたいのだから」



まるで、射抜くような目。
彼女の目が微かに揺れた。

後悔した。言わなければ良かったと。




「…女王陛下?無理を言わないで。
 今だって命令だから4日に一度こうして…」




苦しそうに顔を歪める。
辛そうだ。
対照的に
彼は小さく笑った。
優しい顔で。




「チェックメイト」



マントを翻し
    立ち上がり
       手を伸ばす。


男らしい、骨ばった手が髪を掬う。

少女の目には涙が溜まっていた。



「結婚は直に考えればいい。

 だから、その男の申し出は断りたまえ」



ブロンドの髪に口付ける。
彼女はボロボロと涙を流した。




「駄目なの、これ以上は…辛いの。
 一緒になれないのに、こんな…」


「命令だ。」



カタ、テーブルについた手が
チェス盤に当たる。
 

  黒の キングが倒れた。





「私から離れるな」



塞がれる唇。

頭を包む手に自分の手を重ね
離れた時、彼女は微笑んだ。






「こんなはずじゃ無かったのに」





次の日、
庭でチェスをする女王陛下と少女が
幸せそうに寄り添っていたのを
トランプ兵は微笑ましく見ていた。



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