銀色アイデンティティ

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「…それ、本当に雅治?」



「はい?」





今日は数日前の、
雅治くんも出ていた練習試合の話を雅奈にした。



そんな怪訝そうな顔しなくても…





「じゃあ、なに?
 雅治は普通に、普通にプレイして勝ってたわけ?」


「でも、
 レーザービームっていう柳生くんの得意技してた。
 敵の子すごく惑わされてたなぁ」





ご丁寧に柳くんが教えてくれたのだ。
何故か雅治くんの試合中、開眼してたけど。





「…はーん…なるほどね」


「なんで雅奈が1人で納得してんの。
 最初から最後まで疑問しか残ってないのに」


「私、前に教えてあげたでしょ?
 テニス部の餓鬼達と雅治のプレイスタイルのこと」
  ```````````````````````
 



含みのある言い方。
…その言い方、誤解うけそう。
雅治くんと出会った日に彼らのことを聞いていただけ。
柳生くんの名前も、幸村くんの性格のこともある程度理解していたつもりだ。





「私の思ったとおり根は良い子だよ」





テニスの試合で
相手のペアにボールをぶつける様には見えない。
勝ちに執着し
実力を極めるとともに楽しさを忘れている様に見えない。


全部《過去》だからね。





「今が良ければ全て良し、だな」


「…アンタがそう言うなら邪魔するのも無粋よね」


「なんの邪魔?」 「こっちの話し」






ガチャ、


開かれた扉の前に帰ってきた、


「おかえり雅治くん」



ソファから顔だけを仰け反らせると
目に映るのは上下反転した彼。



「…プリッ」


「…へえ、雅治がねぇ…」


「気持ち悪いのぅ…ジロジロ見なさんな」



帰ってくるなりドカ、とカウンター席に座る。
私は席を立って珈琲を淹れてあげた。
ごく自然にそれを口に運ぶ。



「そうじゃ。
 林檎さん、次の連休空いとる?」


「確か空いてる」


「なら、前に約束した試合やらん?」


「…うん、いいね。やろっか」



そう言ったら
玩具をもらった子供のように目を輝かせる雅治くん。



…こういう顔する子だっけか。





「また詳しくは明日教えるきに」


「分かった、と。そろそろバイト行って来るね」


「おん。頑張ってきんしゃい」











(にやけるのぅ)

嬉しい。
好きだと気づくと中々自制が効かなくなる。
慎重にいかなくては。
他の女達とは違うのだから。



「雅治」



俺の思考を遮ったのは姉の声だった。










「アンタ、林檎のこと好きでしょ」









あの人の淹れてくれた珈琲を噴いた。
…漫画か。

一番知られたくない人に知られた。
理由は簡単だろう。




「簡単に林檎とは付き合わせてやらないから」




かなり姉貴は林檎に浸水気味らしい。
心配性とも取れるが…うん。
どんな邪魔をしてくるか分からない。




「(邪魔はしないけど、最低限は守らせてもらうわよ)」




身内だからこそ、騙せないのだ。
下手にしてペテンがあの人にバレても嫌だし。

とりあえず、
俺はこの場で困ったように髪をかきあげながら
約束の日の想像を胸一杯に膨らませていた。













「雅治くんに言いにくくなっちゃったなぁ」












銀色、其々。ギンイロ、ソレゾレ。





(幸村くん達に手伝ってもらおうかしら)


(林檎さんて運動出来るのか?)


(いつ言えばいいかな…黙ってるのも…)




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