銀色アイデンティティ

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風が強くなってきた。






何週間か過ぎれば梅雨の時期に入っているだろう。





仁王雅治
木下林檎


2人が出会って一ヶ月以上が過ぎた。








まだ、名前で呼ぶのが慣れない。
呼ばれるのも慣れないが。






「林檎さん」




彼が口に出す聞き慣れた言葉が
自分の名という自覚が出ない。












「あ、仁王の姉ちゃんだ」





現在位置は立海大敷地内。
時間はお昼。今、登校。


食堂で、男子生徒に捕まりました。




「へぇ、この人…」




私は“仁王の姉ちゃん”の友達です。

その言い方は実の姉みたいだ。




「ま…、仁王くんのお友達?」



流石にお友達の前で名前呼びは出来ない。

鮮やかな赤い髪をした男の子と、
ウェーブ掛かった美人な男の子と、
高校生か、疑いそうな男の子。
(制服だから学生だろう、多分)

美人な子は私を上から下まで見てる。
なに?怖いよ。オーラが。




「俺と真田はコンビニで見たよな?」



ぷう、と膨らむガム風船。
前にも見た気がする。



「ああ、思い出した」



棚に隠れて見てた子達って
前に、食堂で雅奈と話してた内の数人か。
美人くん(仮)が、微笑んで手を差し伸べる。



「初めまして。
テニス部レギュラーの幸村です」



丁寧な人だな。優しそうだし。

微笑みかえし、林檎は手を重ねると





「はじめまして。
木下林檎です。

…幸村くん、そんな猫被らなくていいよ」



丸井と真田は顔を青白くした。
幸村の目が丸くなった。
空気が凍りついた。



はずだった。



「、ははっ」



あろうことか幸村が声を出して笑ったのだ。
次は、丸井と真田が目を丸く。



「流石、仁王だね。面白い」



手を握られたまま、笑われ、
理解出来ずに眉を下げる。
ついさっきの綺麗な笑顔とは違い、
自分の思いを表した笑顔で目配せした。



「赤い髪のデブは丸井。
あのオッサンが真田。
2人共、俺と同じレギュラーだ」



悪戯っぽく楽しそうに笑う。
黒い笑みがイキイキしている。



「!?幸村、誰が「黙れ」、」



繋いでいた手を解いて、真田の頭にチョップを入れた。
“デブ”と言われた丸井くんも黙っていなくて私お構いなしで騒ぐ。

普段はこの中に彼がいるのだろう。









「仲良いんだね、みんな」



3人ともおかしな物を見るように私を見た。




「みんなのおかげで仁王くん、

 毎日楽しいんだろうなぁ」




頭に?を並べている丸井くんと真田くん。
かなり驚いた様子の幸村くん。











仁王宅、バイトの送り迎え、その道中
雅治くんが私に話すこと。



部活や、授業中、お昼、
廊下、休みの日。

彼を可愛いと感じる。






本当は、
雅治くんからみんなの特徴聞いてたから
何となく知ってた。



顔は知らなくても、予想できた。


雅治くんは良い仲間だね、
って言うと否定するけど口は笑ってるから。




「どういう意味

「林檎さん、合格」

幸村、遮る「うるさい」…」



真田の言葉を遮り、親指を立てた幸村。



「「?」」




話を掴めない丸井と真田と林檎

だが、幸村は話を進めた。




「仁王に悪影響を与えるならどうにかするつもりだったけど」




一瞬の悪寒。
自分を何故か疑っていたようだが口振りからするに
もう大丈夫なようだ。




「問題なさそうだ」




何が良くて、悪いのか分からないが
認めてもらえたらしい。
(話に聞いてた以上に分からない人だ)



「幸村くん、どういうことだよぃ?」

「これからよろしくってこと」



私にも分からないけど、
それは絶対違うでしょ。



「ふーん、林檎さんシクヨロ」


あ、信じちゃうんだ。
真田くんはまだ立ち直ってないようで放置。



「林檎さん、あのさぁ」

丸井くんから、いくつか質問された頃





「林檎さん?」


聞き覚えのある声が。




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