銀色アイデンティティ
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たまに、たまにだが
彼女のバイト先に
通うようになった。
もちろん、自分は客。
顔みしりの特権(?)としてレジやオーダーは彼女がとってくれる。
それでも、たまに、たまに
彼女を店まで送ることもある。
夕方に近いといっても暗いことに変わりない。
そう言えば、渋々ながら了承してくれた。
素で話してるあの人は、
(そこまで偽っていた訳でも無いだろうが)
より気さくで、
親しみやすく感じる。
まあ、何より、驚いたのは
「(初めて名前呼ばれた時…)」
大学での男友達は、名前呼びでも平然としていた。
(前に見かけたし)
自分よりも一緒にいた時間が長いのもあるだろうが、
(少し悔しい)
“フランク”に見えない分、思いもよらぬ所で
あんな顔するとは…。
` ` `
「仁王、口元が緩んでるぞ」
「、…なんじゃ…参謀か」
一気に現実に引き戻された。
ガタッ、と椅子を持ってきて仁王の前の席に座る柳。
相変わらず、
綺麗に閉じている瞳ですこと。
なんて嫌味は心の中で吐いた。
「フッ、俺で悪かったな」
「…何も言ってないぜよ」
「そう機嫌悪くするな」
手にはノート。
今は、俺の事でも書き込んでるんだろう。
「…にやけとった?」
顔には出さない主義だから
同じテニス部の奴らしか、気付かないだろう。
できる限り真顔で問うたつもりだ
「ああ、かなり、な。
…“姉の女友達”か?」
「…は?」
何で参謀が知ってるんだ。
一体どこまで、この男は
情報オタクなのか。
しかし、
言った本人も驚いた様子で
柳の瞳がうっすらと開く。
「ん?何だ。本当の話か?」
「…は?」
余計困惑する頭に響く冷静な言葉
1人流れについていけてない仁王の口からは低い声が洩れた
「…説明するから落ち着け」
彼は知らずのうちに
机から身を乗りだし、柳に迫っていた。
…自分は、
かなり取り乱してしまったらしい
悪い、と言って仁王が
椅子に座り直したのを確認し
説明をする為か、
空気を和ませる為か、
柳が一咳ついた。
…