銀色アイデンティティ

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夏服になって自分には厳しい暑い日差しが注ぐ。
俺は色々なコネで廊下側の一番後ろ、
扉を開けると涼しい席を勝ち取った。

最近、ツいている。




「…帰り道はヤバかったぜよ」


「…そうか」




この男、バレた途端隠す気を無くしすぎだ
そう柳は思った。

それも、内容が惚気となると呆れてしまうが
…いつの間に他人に女の話をするようなったのか。
まだ付き合ってもいないのに幸せそうだ。



「髪触ってきたり、背中撫でてくるのは反則だ。
 それに、話が途切れても全然息苦しくないなり。
 つか、背中に胸当たっとったし?
 男物の香水が林檎さんっぽかったのぅ…
 手温かくて、くすぐったくて
 口開けて寝たのも可愛くて困ったぜよ」



まるで、乙女だな。

つらつらと述べられる彼の想い
顔こそ机に伸ばした両腕に埋まっていて見えないが
赤くなっているだろう。



「…仁王」

「なんじゃ?」

「良かったな」



“良い”にどんな意味があるかは分からない。

帰り道の出来事か、
ペテンを知られても嫌われていない事か、
はたまた、別の何かか。

ただ、柳の顔は笑っているから悪い意味じゃない。
長い付き合いだから分かる。



「…あぁ、良かったなり」












久しぶりに雅奈を自分のマンションへ呼んだ。
どうしても、彼がいつ帰ってくるか分からない
あの家では話せないことだから、



「…林檎、なんて?」


「帰り道に、雅治くんに
 おぶってもらって帰ったんだけどさ…

 雅治くんって男の子なんだなって」



馬鹿弟は男として認識もされてなかったのか
頭が痛くなる。ドンマイ、雅治。


「…一応、性別は男よ」


我が弟ながら同情する。
今日は泊まるつもりなので部屋着に着替えながら
話を続けてみる。
しかし、繋がった話は在らぬ方へ進んだ。


「それは知ってる」

「…どういうこと?」

「…体が固くて、筋肉質で、でも
 髪は柔らかくて長くて、色っぽい。
 背中、私とか雅奈より広くて…
 それに気付いたらびっくりしたんだ」


あー驚いたー、なんて呟きなから
レポートを漁る彼女を見て
私は頭を抱えてしまう。



「若いっていいね、
 雅治くんには負けちゃったよ」



(前言撤回)
(中々、上手くほだされている。)


彼女は意識し出した、帰り道に、弟のことを、

あんな目をして男について語る彼女を見るのは
高校以来かもしれない。
前から意識する伏線はあったのだろう
それが弾けたのだ。


「林檎」

「ん?」

「今、楽しい?」



“何が”という主語がなかった。
無かったから私は当てはまるものを色々考えてみた
けれど今この現状に不満がある訳じゃないし
逆に非常に楽しんでいるし、満足してる。

悩んで唸っていると雅奈は吹き出した。
失礼な!!真面目に考えてしまった私が
馬鹿みたい。
二人で声を大きくして笑いあう。





「…やっぱり楽しいわ」



銀色、楽しい。 ギンイロ、タノシイ。



(意識してる事には気付いてないのね)


(男の子は凄いなぁ)

(なんだ、今日は来てないんか)



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