銀色アイデンティティ

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連休に入った2日目。

場所は学校のテニスコートだ。
午後なら空いているらしい。




「もう当日かー…結局言えてないし」




ラケットバックを担いでコートへ向かった。




日差しが強くなっている。もう夏か。
日焼け止め塗りたくってきたから日焼けの心配は無いかな。


ジャージを着た彼を見つける。


(目立つなぁ…銀髪。なんで幸村くん達まで?)




「あ、林檎さん。すまんのぅ…
 コイツがプレイ見たいって煩くて」

「ずるいっすよ!
先輩達全員、木下さんって人と会ったことあるなんて!」

「別に会わなきゃいかん理由ないナリ」




そんなに有名になる必要があるのだろうか。
宥める仁王くんの影から幸村くんが寄ってきて
(丸井が挑発したんだ。ごめんね)
と囁いた。なるほど。




「よろしくね。m…仁王くんに聞いてるよ。
 切原くん、別に見て行っても構わないから」

「っ、本当っすか!?あざーす!」

「馬鹿者!ちゃんとお礼を言わんか!」



元気な子だ。かなり可愛がられてるんだな。
怒られてても凄く微笑ましい。



「そろそろ始めるぜよ。林檎さん経験者じゃな?」



ジャージの上着を脱いだ彼は私のラケットを指差した。
学生の頃運動するのが好きだったからだと答えた。

グリップも先ほど変えたばかり。

久しぶりに握る。





(コートに立つの何年ぶりだろ)





テニス部のレギュラー達は
邪魔にならない場所で観覧している。


「柳くん、どうしたのですか?」


黙々とノートのあるページを見つめていた彼は
顔を上げた。



「…俺の集めたデータが正しければ」








「この試合、仁王が負ける確率48.7%だ」


強くはっきりした男の声は
いきなり鳴きだした蝉の音にかき消され

コートには届かなかった。






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