series1

□鼓動
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ここは物語の綴られた世界だけど。





「白ちゃん、こっち来て」




アリスを不思議の国へ招く白ウサギの家。
ふわふわとした白い耳の生えた少年の家。



そこに私は通っている。






「その呼び方、アイツみたいだから止めろ」




あの子の為に作った料理をテーブルに並べていた君は
眉間に皺を寄せても、私の所に来てくれる。
優しい。




「なに」


「ん?いつもの」




少し距離をとってソファに座る私の前に立つ。
うん。大丈夫。手の届く距離だから。




「…僕、今メアリアンのご飯運んでたんだけど」


「…うん。ちょっとだからさ」




白ウサギに手をのばして、
手首を掴んで、
抱き寄せる。

耳元に、彼の胸元。




トク、ドク…トク




はあ、と息を吐く私を不可解そうに見る彼。
何度目だろうか、彼の音を聴くのは。

今まで私が離すまで私に話しかけることの無かった白ウサギが
初めて、口を開いた。






「いつも思うけど、心臓の音なんか聴いて何になるの」



「…」





彼の体から離れて、私をジッと見る目に笑ってみせた。







「心臓の音が好きなの」





まだ何か言いたそうにしたけれど、
変なの、と言ってテーブルの方へ戻る君。







「ありがとね。白ちゃん」







不安だよ。怖いんだ。



でも、君の音を聴くとね。

このおかしな国でも

生きてるんだって思えるんだ。












「ねー、白ウサギー」

「なんだよ、もう」

「また、ここに来てもいい?」

「…」







君にも、聴かせてあげたいよ。







「…好きにしたら」



「えへへ、白ちゃんはやっぱり優しいなぁ」



「…だから白ちゃんって呼ぶな」







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