銀色アイデンティティ

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振り向けば雅治くん。


「…やっほー」

「何で一緒に話しとるんじゃ?」


いきなり聞くかな。

多少、息が乱れてた。
珍しい。焦ってる彼は。




「皆さん、遅いですよ」


仁王の次に遅れてやってきた柳生。


「ごめん、ごめん」

「いきなり走り出したのですが…
あの人は…」


逆光レンズで、目の向く方向は分からない。


「林檎さんだよ」

「!コンビにで話していた方ですか」







「普通に話しただけ。それに
悪い人たちじゃないんでしょ?」


心配してるのか、
余計なことを言わないようにか、
どちらか分からない焦り方。

落ち着ける為、問う。
応えないだろう問いを。



「…名前で呼ぶの止めたんか?」



やっぱり。正直じゃないな。
それが彼の性格なんだろうけど。


「お友達の前で名前呼びは駄目じゃない?」


「別に良いき。一々、気にせんよ」

「仁王くん」


聞いたことの無い、第三者の声。
茶色い髪の落ち着いた男。


「そちらの方は、前にコンビニで
 お見かけした方ですよね」



彼の名前は、確か


「初めまして」


雅治くんのダブルスパートナー。
柳生比呂士くん。


「ええ、初めまして」


なんだか声色が厳しい。
気のせいでは無い。


「?どうしたんじゃ、柳生」

「何もないですよ?
…もう昼時間になってから10分経っています。
そろそろ戻らせていただきます」




学生にとって昼時間は大切。
それは分かるけど、あまりにも急だ。
私に対する言葉が冷たくないか。

どうして…




“仁王に悪影響を与える”




幸村くんが言ったこと。
あの時、悪寒が体を巡った。



私が考えてることが合っていれば…



「お前な「柳生くんっ」

、林檎さん?」



雅治くんの言葉を遮って声を出した。
幸村くん達も私達を見る。






「私は雅治くんの邪魔はしたくないし、

 皆から横取りしようとも思ってない」



「大事な仲間を思って、

 心配する気持ちも分かるし、

 私が怪しく見える気持ちも分かるよ。

 貴方達は正しい」






「だけど、彼とは仲良くしたいと思ってるし

 雅奈と一緒にいれば

 長い付き合いになると思う」










「だから、私は



 貴方達とも仲良くなりたい」




私の考えが合ってるなら、
彼らは心配なのだ。

いきなり現れた私に、彼を奪われるのが。
大切な友達を、傷つけないか。
大事な仲間の、人生を狂わせないか。



優しい優しい彼の仲間達。



口に出した言葉に嘘は無い。
本気だった。



「っぁははは!」

またもや、笑い出した幸村くん。
今度は腹を抱えて大笑いといった感じだ。


「なぁ?柳生、面白い人だろ」

彼以外は呆気として口を半開きにしてる者もいる。

当の柳生は呆けて脱力していた体に思考を回した。



「…すみません。
貴方には酷い態度をとってしまいました」

「いや、柳生くんのほうが正しいよ」


頭を下げる彼に止めて、と言う。
彼はもう一度謝ると微笑んだ。

    優しく、優しく


ああ、良かった。と息を吐いた









「…」


仁王は口に手をあて、下を向いていた。


「(顔が熱い)」


予想もしない所で凄い事を言う人だ。
この場には丸井達もいる。
悟られないようにしなくては。


「えーと、雅治くん」

「っ」


今は話しかけないで欲しかった。
表情を消して前に立つ彼女を見ると
気まずそうに、はにかんでいる。


「偉そうな事言っちゃってごめん」

「そんな事ないぜよ」


嬉しかった。本当に。



「仁王、行くぞ」


真田が俺を呼ぶ。
幸村が手を振る。



「雅治くん、これからもよろしくね」


今までもあいつらのおかげで楽しかった。
それでも、
今が楽しいのは君のおかげもある。





「…プピーナ」







  今、詐欺師は恋をしている。





銀色、喜び。 ギンイロ、ヨロコビ。



(悪影響なんて無かったけどね)


(逆に女性との遊び癖も無くなりましたからね)

(?幸村くんと柳生は何の話してんだ)

(…さあのぅ?)



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