帝王の書斎
□ハロウィン企画 被験体
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――これは、数年前の夕月館でのお話。
「10月31日――今日は、ハロウィンらしいね」
聖夜は読んでいた本を閉じ、向かいに座っていたリン――聖夜の唯一といっていい“友達”だ――に言った。
「そうだね。まあ、ぼくたちには関係ないけど」
「Trick or Treat……だっけ? お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ☆ っていう」
リンは自分も読んでいた本を置き、伸びをした。
くあ、と欠伸が漏れた。蛇のような金色の瞳を細め、机に倒れこむ。
「ルーツはケルトの収穫祭だっけ。古代ケルトでいえば一年は今日で終わりなんだよね」
「明日からまた、新しい一年ですか。まったく、面倒くさい」
「まあ、相変わらずそんなこと、ぼくたちには関係ないんだけど」
「関係ない――か」
「だって、そうじゃない」
リンは諦めたように目を伏せた。
派手な色をしたアメリカンパンプキンで作ったジャック-オ-ランタンに、仮装衣装に身を包み、町を練り歩く子供たち。このまえ見たテレビにそんな映像があったような気がしたな、と聖夜は思う。あまり興味がなかったので、詳しくは覚えていないが。
聖夜もリンも「夕月館」から出たことがないため、ハロウィンというものをやったことがない。
世の中が祭りに浮かれている中で、どうして自分たちだけつまらない大人たちの実験に付き合っていなければいけないのか。本来、皆で集まって騒ぐという行為が苦手な聖夜だったが、考えれば考えるほど腹立たしくなっていった。
異能のものとして研究所に押し込められて以来、運命の理不尽さには慣れっこだったが、何故だか今回は釈然としないものがあったのである。