帝王の書斎
□瑞穂と鳴海。
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わくわくどきどき☆修学旅行も、今日で三日目。日付は数十分前に超えている。四泊五日の日程の前半が、やっと終了したのだ。
神山中学校男子部3-A第1班が宿泊している、801号室。その部屋の床には多数の屍が転がっていた。睡魔という敵に負けてしまった勇者たちの亡骸だ。体力の底が知れない男子中学生も、丸二日ハイテンションでいるとさすがに疲れてしまうらしい。
十二時を過ぎてすぐ、同室者たちは電池が切れたように次々と倒れていってしまった。
更けていく夜。眠れないのは、自分ひとりだけ。
瑞穂は、ふう、と息を吐いた。――退屈だ。退屈すぎて、死にそう。
友人たちを起こさないように、そっと布団から立ち上がる。
秋の暮れの夜、ひんやりとした空気に一度だけ身を震わせた。
* * *
見回りの先生に見つからず、なおかつ暇が潰せる場所。そう条件付けて見つけたのが、テラスだった。一般客の宿泊域に入っているので見回りは来ないし、何より夜空が見渡せる。瑞穂は星が好きだった。
今の時期では何座が見られただろうか。記憶の引き出しを漁りながら、瑞穂はベンチに横になった。持ってきた羽毛コートのお陰で寒くはない。自分のではない。床に放置してあった友人のものを勝手に拝借してきていた。
地面と垂直に腕を上げれば、星を掴めてしまえそうな気になってしまう。
満天の星に、山の綺麗な空気は都会の汚れた空気とは違うのだと改めて思い知らされた。
この空を星の海と表現するなら、それを見上げて覚えた目眩は、溺れているとでも言えばいいのだろうか。
なんて。
どこのロマンチストだよ、と自分に突っ込みを入れる。
きい、と扉が開く音がした。
他の客だろうか。瑞穂は視線を扉に向けた。
「――眠れないのか」
やってきたのは同じクラスの生徒だった。
「ああ。お前もか、鳴海」
「隣で寝てたやつに腹を蹴られて目が覚めた」
「それは災難だな。鳴海の同室は坂下と井上……ああ、戸笠か」
「あいつって見た目と違って、寝相悪いんだな。てかなんで俺のルームメイトを知ってるんだ。何だお前、俺のストーカーかよ」
「冗談はよせ。……俺は委員長だからな。クラスメイトの部屋割りぐらい把握している」
「そういえばそうだっけ。委員長って大変だな」
鳴海はわき腹をさすりながら、瑞穂が寝ころんだままのベンチに腰掛けた。
頭の方に座られたので、当然瑞穂の視界は鳴海の体に遮られることになる。
「おい。星が見えん」
「何してるのかと思ったら。星、見てたのか」
「悪いか」
悪かない、と鳴海は言い、空を見上げた。
「これを綺麗だと思わない奴の方が、どうかしてる」
「……そうか」
それきり、鳴海は黙り込んでしまった。
――沈黙が痛くないな。
瑞穂は思う。この状況がおかしく思えて、少しだけ口元を緩めた。