ラブレボ!

□汚れた君と、[+華原(黒)]
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優しくされたら、壊れてしまう気がした。

こんなこと望んでなかったのに。



何度か瞬きを繰り返すと、靄がかかっていた思考が晴れて来た。
薄暗い倉庫にいること、制服を脱がされて、下着一枚で石灰と埃まみれの冷たいコンクリートに横たわっていること、俺の身体をサンドバック代わりにして意識が無くなるまで殴った奴等のこと。下衆な言葉と笑い声を浴びせるだけ浴びせて…それであいつら、気が晴れたんだろうか。

クラスメイトの気配がそばに無いことに安堵して、ギシギシと悲鳴をあげる身体を起こした。


「おはよう」


突然かけられた声に反射的に顔を上げて見る。
用具倉庫の入り口近くに置かれたサッカーボールの籠に腰を預けていたのは、惨めな俺とは全く接点の無いはずの男だった。

「か…はら、」

無意識に呼んだ名前は、学園では知らない者のいない人気者。
明るくて、誰とでも直ぐに仲良くなって、いつも沢山の友人に囲まれて、笑っている。爽やかで楽しい奴。
学年が同じだし目立つから、何度となく姿を見掛けることはあったけど、一人で、こんな…校舎裏の用具倉庫に居るなんて、どうして。

「放課後の校舎裏…なんて、告白の呼び出し以外にも使い道があるんだね」

華原はにっこりと笑いながら、手の中で遊ばせていたケータイをパチンと閉じた。


「………そうか。華原にビビって、逃げたんだな」

「ああ。」

道理で。いつも一度気を失ったくらいじゃ終わりにならないのに、今日に限ってしつこくなかったことに納得がいく。所詮、俺一人でさえも集団でしか構えない小心者共なのだ。
可哀相に。華原なんかに思いがけず現場を見られれば、さぞや見苦しく慌てただろう。その時に意識がなかったのが残念だな。

思わず漏れそうになる笑みを噛み殺しながら立ち上がり、散らばっている制服を拾う。
足元はフラつくし動かす度に酷く殴られた場所が痛んだが、気分は良かった。

「助かったよ。…いや、告白の邪魔をしてしまったか?――悪かったな」

「別に。どうでも良かったからね。」

「…『どうでも良い』?」

その口調はイメージ通りの『華原雅紀』なのに、俺は僅かな違和感を感じてシャツに袖を通したまま動きを止めて、改めて華原を見た。




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