DRRR!

□砂上のキミ
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いくら防御率の高い鉄壁でも、一つ足を踏み入れてしまえば簡単に壊れてしまうことは知っていた。
しかしそれをしなかったのは私に勇気がなかったからだろうか。
確かにあの時の私は中にいるようで外から物事を見ていた人間だったけれど、欲しいものは欲しいと豪語する性格だったようにも思える。
記憶は美化されるものだと聞くから、それは信用のある記憶ではないけれど。





街外れの一角にある大きなビル。新羅はそこの一部屋で午後のティータイムを楽しんでいた。
マグカップから流れる霧のような湯気が頬を撫でては空気に消えた。
名残を残すかのように眼鏡に付いた白い靄も、少し時が過ぎれば消えてしまった。
それを楽しむかのようにマグカップに口をつけ、体内にも表面にもぬくもりを受け、そして寂しい時を過ごしてと、ただ一心にその行動を繰り返していた。

そうでもしていないと、心が掻き回されそうだったからである。
岸谷新羅は幼馴染である平和島静雄に少なからず恋心を抱いていた。
同居人であるセルティのことを好きだと思っていた新羅だが、しかしそれはただの憧れだったのかもしれないと、高校に入ってから思った。
静雄のことを好きになってしまった自分の気持ちには納得した。
人間の心はそんなものだろうと、別にその思いを伝えることもないまま今まで過ごしてきた。

だが頑なに縛っていたその気持ちが溢れ出そうなまでになってしまっている。
それはついさっき患者がどこかで仕入れてきた情報を聞いたときからだった。














「そういや、平和島静雄に恋人が出来たんだってよ」

大分調子の戻ってきた患者が私にそう言った。
この患者は体の殆どの骨を折るという事態に陥りながらも、九死一生を得て今こうして元気に生きている。完治するまでは共にいるつもりなので、今月で半年は一緒にいる気がする。

「へぇ、そうなんだ。どんな子?」

最近入ってきた新しい後輩だろうか。
だとしたらお互いの一目惚れという結論でいいのか。

「それがよぉ、その恋人ってのがあの折原臨也なんだってさ!」

「…は?」

思わず本音がこぼれたが、彼は対して気にした素振りも無く、興奮気味に目を輝かせながら語る。こっちの反応など気にも留めていないようだ。

「はじめは有り得ねぇって思ったけど、恋愛はやっぱ自由だよなー」

彼の許容量の意外性などどうでもいい。
そんなことよりも二人が付き合っているという自体が新羅には問題だっだ。

「ちょっと用事思い出したからこれで失礼するよ。」

「んぁ?んー、わかった」

ただならぬ新羅の雰囲気を読み取ったのか、彼は悩みながらも納得すると人懐こい笑顔を向けて承知した。





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