DRRR!

□終わった恋慕
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※セルティ語り



私は新羅に恋慕を抱いていたのだろう。
今となってはこの思い露にすることはできないが、思うことだけは許してほしいと誰かに願った。


つい三ヶ月前、池袋の交差点で事故があった。
運転手は居眠り運転で、その時丁度買い物に出ていた新羅を撥ねたのだと、たまたまそこに居合わせていた静雄が言った。
私はその時仕事で地方の方に出ていたため、新羅が事故にあったのは三日後に知った。


中央病院に運ばれた新羅に付き添ったのは静雄だと聞いた。
記憶のない新羅がはじめに見たのは静雄だと聞いた。
何も知らない私が帰って来たときに見たものは、常日頃からよく私に見せる間抜けな顔で静雄を口説く新羅の姿だった。
私の存在に気付いた静雄は苦しそうに顔を歪め、新羅は知らないものを見るような顔だった。
そのときに察した。新羅は記憶がないのだと。

私のことを説明しようと口を開いた静雄を止め、私のことをPDAに打ち込んだ。


『私はお前の助手をしていた。セルティという』


静雄は何で、という顔をしていたが、何も言わず目を伏せた。
そうか、と笑う新羅の差し伸べられた手を握り返し、同時に喪失感も覚えた。



現在、新羅と静雄は付き合っている。
静雄は新羅の記憶がある時から新羅のことが好きだった。
本人が口にすることはなかったが、きっと新羅も気付いていたことだろうと思う。

そんな恋心を抱いていた男からの告白だ。
断らないわけがない。
一ヶ月前に二人は付き合いだした。
こうなることは分かっていても胸が痛んだ。


新羅はよく私にヘルメットを取ってほしいと言うが、もしそれで記憶が戻り静雄を泣かせてしまったらと思うと、なかなか外すことはできなかった。



しかし最近、新羅の記憶が戻ってしまえばいいと思うことが多々ある。

きっとこれが「嫉妬」というものなのだろう。


私の体に頭がなくてよかった。
もし頭があったのならば、私の顔は醜く歪んでいただろう。







END.

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