駄文

□乱反射
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世界から見放された、こんなにもガラクタが、武器が、命が溢れているこの街の中で。限られた空間でしか生活できない自分達は、それでも幸せなのだと思う。




どんよりと曇った空の下。すぐにも雨が降りだしそうな暗く静かな空に大きな声が2つ、響く。

「なっ おいウボォー! それは俺が拾ってきた物だぞ!!触るんじゃねえよ!」
「ああん? こんな機械、何に使うんだよ。へっ ノブナガ、お前もシャルみたいに機械いじりでもすんのか?」

目の前で喧嘩している少年達の一人、ウボォーギンが相手のノブナガに、小馬鹿にしたように鼻で笑うと。
ぶつん、とノブナガの怒りが限界を突破した音が聞こえた気がした。
瞬間二人の間には火花が飛び散り、埃っぽい彼らの根城は急速に舞い散る砂に覆われていく。
またか、と思いため息を着くと周りで各々好きなことをしていた他の仲間たちも呆れ顔で彼らを見ていた。

「…あいつら、また喧嘩かい?毎日毎日、よく飽きないもんだね」
「ふふ、それほど仲が良いって言うことなんじゃないのかな」
マチがため息を着きつつ呟くと、後ろで彼女の髪を縛っていたパクノダがくすくす笑う。そういうもんかねぇ…と言い「いい加減
うるさいから止めて欲しいよ」と繋げたマチの顔は、それでもどこか楽しそうで。

「ただの馬鹿ね。脳内筋肉でできてるねきと」
「はっは、確かになーまあ見てて面白ぇからいいけどな」
「まあ人の事は言えないけどね」
高く積まれた瓦礫の上の方で、二人でどこからか拾ってきたと思われるボードゲームを囲んでいたフィンクスとフェイタンも口を出す。彼らもよく喧嘩をしているのだから、あまり人の事は言えないのでは――と考えていたら、シャルナークも同じことを思っていたらしく、ぼそりと呟いた声が聞こえた。

「いいじゃないか。あれであいつらの腕が上がるなら」
そこで、今まで会話に参加していなかったクロロが本から顔をあげ、笑いながら言う。
「クロロ!君までそういうことを言うからウボォー達もやめないんだよ!」
「ん、そうなのか? それはすまない」
そんな彼にシャルナークが声を飛ばすと、本人は悪びれた様子もなくクスクスと笑いながら謝罪する。
「だが、シャル。 きっとあいつらは俺が言っても止めないぞ。単純バカだからな」
「おっ クロロナイス!その通りだぜ」
「あんたも人の事は言えないよフィンクス」


わいわいと段々賑やかに
なっていく喧騒の中で目を閉じ、ふと自分達の状況に思いを馳せる。
ガラクタだらけで、ほかには何もない。食べ物さえろくに手に入らず、何日も飢えで苦しむことなど日常茶飯事だ。
大人も子供も、みな平等に生きて、死んでいくこの汚れた街。
世界にいないはずの人間たちが山のようにいるこの街の、自分達もそのうちの一人で。 飢え、傷付き、生きるためなら盗み、そして殺しさえも厭わない――そんな腐った生活をして生きている自分達だが、今こうして楽しげに笑いながらここにいる。世界の不条理を呪い、この街のおかしさを考えたこともある。生きるのが辛いと思ったことも。
しかし今俺は、俺達は、必死に、それでも光の中で楽しく生きている。仲間たちが居ることによって、世界が明るく照らされる。
乱反射しどんなに醜い場所をも照らす仲間という光を浴び、これからも俺は生きていこう。


…なんて、らしくないことを自分は考えているのやら……知らず知らずのうちに、唇に薄い笑みが浮かぶ。
物思いに耽っていると、目の前の喧嘩が更にヒートアップしているようで。流石に周りの仲間も冷や汗を掻き出す。

「ちょっとぉフランクリン!!笑ってないでウボォーとノブナガ止めてくれよ!流石に俺たちじゃ無理!」
「うおっ 今のパンチすげえなウボォー。避けるノブナガもすげえが」
「大怪我されたら困るんだけどなあ…」
「フランクリン、止めてやりなよ。うるさいからね、皆に迷惑だ」

観戦しながら口々に喧嘩の仲裁を求めてくるシャルナークたちに苦笑しながら、座っていた瓦礫から腰を上げようとする。
ふと視線を感じクロロの方を向くと、先ほどのようなからかいの笑いではなく、目を細め口を三日月に変形させた、本当に楽しそうな笑みを浮かべ自分を見ていた。
こちらを向き微笑む彼に薄く微笑み返し、今度こそ腰を上げ、砂嵐を巻き上げる二人の方へ歩み寄った。


暗く今にも落ちてきそうなほどにどんよりと翳っていた空はいつの間にか、光溢れる晴天へと変わっていた。



乱反射
この交差する光の中で、生きて行こう

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