血桜開花録
□池田屋事件
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あれから、山南さんにどっぷりと叱られた。そして私たちが捕縛した奴らの中にいた、枡屋の番頭、喜右衛門こと古高俊太郎は長州の間者だった。
古高の尋問もとい拷問には土方さんがあたり、「風が強い日を選んで、京に火を放つ」といったそうだ。
それは本当に真実か?何かが足りない。古高は何かを喋っていない。
「土方さん。…古高が言っていたことはそれで全部?」
そう私が問うと、土方さんは眉間に皺を寄せる。
「それは、どういうことだ?詳しく話せ。」
「あとで、全員がそろった時にお話ししますので、もう一度古高を尋問してください。そうしなければ手柄がなかった事になります。」
私の必死さに気づいてくれたのか土方さんは少し思案しているようだ。
「でもよ!そこまで吐いたんだろう?だったらもういいんじゃねえか?」
と新八さんが胡坐(あぐら)かきながら言った。
「皆さんの手は煩わせません。私がやりますから。」
結構さらっと言ったつもりなんだけれども、心なしか空気が重たいと感じるのは私だけ?
「架蓮がそんなことするのは俺が許さんぞぉおーーー!!!」
バカ兄、登場。空気が壊れた気がした。
「はい、無視。土方さん、古高はどこにいますか??」
「…仕方ねぇ、こっちだ…」
溜息をはきつつも彼は案内してくれた。屯所内の廊下を通り、一室の前で止まった。
「ここだ…」
「ありがとうございます…じゃあ、ちょっくらここで待っていてください。」
「はあっ!?!お前、仮にも女なんだろ?!一人でなんてっ…」
この人がこんなことを言うなんて意外だ。でも仮にもは余計だなぁ。仮にもじゃなくてれっきとした女ですから!
「まあまあ。おとなしく待っていてくださいよ?ね??」
「…………」
「沈黙は了解と取りますよ?それともう一つ…約束して下さい。決して覗かないでくださいね??」
なぜかって?決まっているじゃないか。男には女の力じゃ勝てないから、鬼化する。それを見られて羅刹にでも間違えられたら困る。蓮兄も疑いをかけられるだろう。だからだ。
「んじゃ、行ってきます」
私は部屋の戸を開けて、目の前にいる一人の男に歩み寄る。
「てっ…てめえ!!さっきの野郎っ!!!」
「ご名答です。さっきの野郎こと桜条架蓮です。貴方にはまだ喋っていない事がありませんか??」
私的には優しく語りかけたつもりなんだけれども、古高はなぜかおびえている。たぶん、土方さんが相当ヒドイことをしたんだと思う。
「もっ…もうおまえら壬生狼なんかに話すことはねぇっ!!!!」
「それは本当ですか?それが真実(しんじつ)ならば、私は何もしません。」
そう言うと、彼は焦ったような表情をしながらも微笑をたたえ、こう言った。
「そうだ。俺の知っている事は全て話した!」
「…嘘をつかないで!!!」
私がそう大声を上げると彼はすくみあがり、顔には恐怖が浮かんでいる。逃げたいけれども逃げられない。彼は縛られているから。
「お前は、化け物かっ!?!」
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