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□Rain
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雨が降っている。

最近毎日雨の日が続いている。





六月の半ば。
梅雨の真っ只中だから、当たり前のことなんだけど。


肌寒いような、暑いような。


微妙な気温だ。




授業も終わり、今日は部活もない。

後は帰るだけなんだけど・・。







「・・・練習、するか」





ポツリと呟く。

雨なんかに、俺の腕を鈍らせるつもりはなかった。




屈辱的だった関東大会を思い出す。

あんなに本気を出して戦っていた先輩達。




初めて見た、氷帝正レギュラーの本気。

初めて見た、部長の本気。



全てを無駄にしてしまった、最低な俺。




自分自身が許せなくて。

悔しくて悔しくて。




今まで、人前で泣くことなんてなかったのに。






『畜生・・・ッ!』





皆に宥められた、惨めな俺が憎かった。






その日から、練習を怠ったことはない。

古武術の練習よりも、テニスの練習に身を入れるようになった。



だって・・。







『日吉、お前はよくやった』






あの宥め台詞。

俺はよくやった・・・って?



それじゃあ、部長のせいで負けたみたいじゃないか。





俺が・・俺が負けたからなのに。







雨の中を走る。

湿ったアファルトが気持ち悪い。


じっとりと肌に付くジャージが嫌だったが、
あまり気にならなかった。



汗を掻いているのか、雨で濡れているのか。







それとも・・・。








「おい」







ふいに、腕を引っ張られた。

その声に、思わず目を見開く。



濡れた金髪が、より一層輝いて見える。






「跡部・・さん」




小さく名を呼べば、彼は苦虫を噛み潰したような顔になる。



俺の声は、少しだけ掠れていた。

最近、風邪気味だからだろう。



彼は、それが気になっていたらしい。

ここ数日、毎日のように「体調は?」と訊かれる。





「何をしてるんだ?」

「・・・見て分からないですか?ランニングですよ」




袖で汗を拭う。

服が、水を含んでいて重い。




「お前こそ、見て分かんねえのか?こんなに雨降ってるだろーが」


「はい。知ってますよ」


「お前は・・・自分の体調も気にしてないのか」





呆れたように、怒りを含んだように言われた。



俺の胸が少しだけ熱くなる。

こんな感情は俺らしくない。



顔を見ていられなくて、背ける。




いつからか、俺は跡部さんといると変な気分になる。

自分が自分でなくなるような気もする。



そんな気持ちが・・怖くもあった。




「・・・跡部さんには、関係ないでしょう?」




気付いたら、そう言っていて。

俺は自分で言ったというのに、なんとなく言葉に傷ついていた。





「俺が・・好きで練習しているんですから。放っておいてください」




一速に言うと、跡部さんの返事を待たずに走り出した。



見上げたときにあった、跡部さんのあの表情。



まるで、俺に傷つけられたような表情。






いつも自信に満ち溢れている彼だからか。

その表情が、妙に俺の心に突き刺さる。






「・・ぅ・・」




走っているうちに、辺りが明るくなってきた。



グレーの空から差し込んでくる、白い筋。







見上げた空にあるその光が。

俺の心には、眩しすぎるくらいに映っている。










End


◇初跡部と日吉!続きものにしようか考え中です。
 

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