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□Mistake
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昨日の熱は一体何だったのだろう。





跡部さんが帰ってから、驚く程早く熱が引いた。
おまけに、体力も大分戻っている。



よく分からないけど、気分もよくなっていた。




ただ、少しモヤモヤとしたものがある。


俺の気持ち、だ。





正直言って、昨日の跡部さんの告白には驚いた。
俺自身、それはよく分かっている。



でも・・・あの時感じたあの温かな感情。

あれは一体何だったんだろう?




学校に行く支度を済ませ、家を出ると。




外に見慣れた赤いおかっぱがあった。





「おはよーっ、日吉!」

「おはようございます・・って、何でいるんですか?」

「何だよその言い方!お前昨日休んだから、心配だったんだよ」



ぷうっと頬を膨らませて言われ、心底驚いた。



この気分屋が・・人の心配をした。





俺の心が分かったのか、彼の表情が曇る。



「お前、俺のこと馬鹿にしてるだろっ!」

「ええ、してますけど?」

「〜〜〜っ!」




何か言いたげな彼を放っておき、早歩きで学校に向かう。

彼も何かを言いながらついてくるが、無視だ無視。




部室に行くと、多くの人に声を掛けられる。

大丈夫か、とか。無理するなよ、とか。



少し・・胸が温かい。

でも、昨日感じた熱さとは少し違う。










午後。

早く来すぎたのか、部室には俺と向日さんの二人だけだ。




「なあなあヒヨ。お前、何か悩んでる?」





向日さんがポッキーを食べながら、そう訊いてきた。


朝といい今といい、この人はいつの間にそんなことが言えるようになったんだ。



でも、ぶっちゃけ俺は悩んでない・・つもりだ。


強いて言うなら、このモヤモヤな気持ちだけど・・・。

こんなこと、向日さんには言えない。





「悩んでませんよ」

「ふぅーん?もしかして、跡部のことかなーって思ったんだけど」



噎せた。

思いっきりお茶を零してしまった。



とりあえずタオルで拭いていると、向日さんは悪戯が成功した子供みたいに、
ケラケラとムカツクように笑っている。




「やっぱ悩んでんじゃねーかっ」

「別に・・跡部さんのことじゃ・・・」

「嘘吐けっての。もしかしてだけどよ、お前、アイツに告られたか?」

「っ!?」



顔が赤くなるのが分かる。

・・もう隠せない。



素直に頷くと、向日さんはニヤニヤしたまま、
やっぱりなーと呟く。



「跡部も今日様子が変だったからな」

「?そうでしたか?」

「ああ。妙に日吉を避けてたぜ」




くくっと喉奥で笑う彼。

先輩だからしないけど、殴りたくてたまらない。



そういえば、今日は一度も跡部さんと口をきいていない。

俺はそんなこと気付かなかったんだけど。




「返事は決めてんのか?」

「え?」

「決めてるんだろ?」

「はい?」

「・・好きなんだろ?」




楽しそうに輝く目でそんな風に迫られると、
逆に違うとは言えないじゃないか。


それを狙ってるのかもしれないけど。



赤いおかっぱ頭が近付いてくる。



思わず後ずさりをしていた俺だったが、ついに背中が後ろの壁に当たった。



ぎょっとする。



向日さんはニヤついたまま、俺の顔を見上げていた。




「OKするんだろー?」

「な、何でアンタにそんなこと・・」

「だっておもしれーじゃん!」




・・・そうだった。

アンタは、前からそんな奴だった・・・。




だけどこれだけは、俺にも分からない。
今更彼にそれを言っても聞いてはくれないだろうけど。





じりじりと詰め寄られて、向日さんの顔がドアップになった時。




部室のドアが開いた。







「・・・跡部?」





振り向いた向日さんの顔がぼんやりとしたまま呟く。


彼は何とも思っていないようだけど・・。





跡部さんは、傷つけられた顔をしていた。

俺にはその意味が何となく分かる。





バンッとドアが勢いよく閉められた。




俺は向日さんの体を押し、ただ呆然とする。






やっと意味が理解できたのか、向日さんが青い顔になっている。




「ご、ごめんな・・日吉」

「・・向日さん」


「俺・・俺・・こんなつもりじゃなくて・・・っ」




泣きそうな彼。



俺はただ、「いいんですよ」と言うだけだった。






瞼を閉じれば、生温い雫が頬を伝う。









・・・やっと、俺のこの気持ちの名前が分かった。











End


◇へたれ日吉くん。
 

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