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□Shine
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「今日は学校はお休みしなきゃね」




母親の声がする。

嫌だ、と言いたかったけど、声は出なかった。




雨粒が窓を叩く音がする。

騒がしい・・騒がしい・・。



頭が割れそうに痛い。

完璧に体調を崩していた。



雨の中を毎日練習していたし、晴れた日も薄着で遅くまで練習していたからだろう。



そして・・胸に引っかかる昨日の跡部さんの顔。



全てがごちゃまぜになって、俺の頭痛を酷くしている。





窓の外を眺める。



学校を休みたくなかった。

練習をしなきゃいけない。もっと強くならなきゃいけない。



だから・・・もっと・・・。





ボーッとする頭で、午前中はずっと寝ていた。



起きて、食事もそんなに取らずに、また一眠り。



疲れが溜まっているのだろう、と母親が言っていた。





疲れ。

俺自身は感じなかった。



毎日充実していたように思っていたから。





「痛い・・」




呟いた。

どこが痛いかなんて分からない。


胸が、チクチクと痛むような気がする。

これも風邪なんだろうか。





夕方。

玄関の方が騒がしい。

階段を上がってくる、落ち着いた音がする。




扉が開いて、俺はおぼろげなその影を捉えた。




見慣れた金髪の髪。

深い南の海のような瞳。





「跡部さ・・ん?」


「あぁ。やっぱり風邪をこじらせやがったな、アホが」


「なっ・・・」




アホだなんて、アンタにだけは言われたくないです。



そう言いたかったけど、頭がズキズキと痛むせいで体も起こせない。



結局、俺はベッドに横たわったまま、
跡部さんは近くの椅子に腰を掛ける。





しばらくの沈黙。


その沈黙が、すごく辛く感じる。






「何で最近、無理してるんだ」




やっと開かれた跡部さんの口から、そんな言葉が出る。



俺は布団に顔を埋めたまま。






「・・・無理、してないです」

「してるだろ。だから、こんな風になったんだろ」


「・・・」



無理なんかしていない。

本当に、俺はそう思ってる。





俺はもっともっと頑張らなくてはならない。

これは、無理なんかじゃない。


氷帝の・・・彼が築き上げたこの学園を継ぐために、
当然のことをしているまでだ。





「日吉」


「?」


「俺は・・お前を心配してるんだ」





突然そう言われて。


俺は思わず彼の方を向く。




少しも迷った色のない、彼の瞳。

その視線と合った途端、俺の胸の鼓動が速くなる。




「はぁ・・」




返事は、そんな風にしか言えなかった。




「あまり・・心配させないでくれ」






そんなの、アンタが勝手にしてるんだろう、とも。


アンタには関係ないだろ、とも。





何も言えなかった。

素直に、嬉しいと思ったから。





・・・嬉しい?



何で、俺が嬉しいと思うんだ。






・・・俺自身が分からない。

俺の感情が分からない。






「俺は・・・」




跡部さんの声。






「俺は、お前が好きだから」








頭が真っ白になる。

胸がもっと熱くなる。




全身の血液が沸騰したような気さえする。






「じゃあな」




そう言った。

彼の声が少し震えているように思えて。





布団から顔を出せば、もうそこに彼の姿はない。





あるのは、眩しいばかりの光だけで。






アンタがいた後は、いつも光が差してるな、なんて。

そんなことを考えていた。





外の青い紫陽花が、綺麗に輝いている。












End


◇跡部さんだって告白は緊張しちゃいますよ。
 

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