聖闘士星矢
□「誕生日に心をこめて」
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「ねえねえカミュ先生、それ何?」
「早く開けて見ようよぉ」
両側からステレオでせがまれ、気乗りしなかったがカミュは仕方なく箱を開けてみた。中には立派な家具調コタツ6点セットが収められており、何やらのし付きの封筒まで入っていた。封筒を開けると中に手紙が入っていて、手紙にはこのように書かれてあった。
「誕生日おめでとう。今、日本に来ててな。とある電機屋で大安売りをしていたもので、お前の誕生日プレゼントとしてそれを贈ることにしたのだ。
シベリアの寒さは厳しいだろうからな。まぁ、3人で仲良く使ってくれ。
あぁ、目を閉じるとお前達3人の喜んでいる顔がまぶたの裏側に浮かぶよ。俺もいつかそっちへ遊びに行くので、その時はよろしくな。
では、良いバースデーを。
P.S. 支払いは出世払いと言うことで。 ミロ」
手紙を強く握り締めている先生の顔は、今までに見たこともないくらい怖かった。氷河とアイザックは、先生が何をそんなに怒りに打ち震えているのか分からず互いに顔を見合わせた。
次の瞬間、先生は手紙を元の封筒に戻すとダンボール箱の中に、まるでゴミでも捨てるかのようにポイッと放り込んだのだった。
「埋める」
非常に険しい顔つきで先生が低く言ったので、2人は恐怖のあまり後退りしてしまった。
「せっ、先生」
と思い切ってアイザックは声をかけてみた。その声は上ずってしまっていた。
先生ははっとしたようにいつもの涼しげな表情に戻って「なんだ、アイザック」と答える。いつもどおりの穏やかな声と、優しい眼差しのカミュ先生だった。
アイザックはぱっと笑顔を輝かせると「先生、それ使ってみようよ」と箱に駆け寄る。氷河も箱に歩み寄って中を覗き込んだ。
「ところで何これ?」
コタツなど見たことがないアイザックが言う。氷河は、日本に居た時に見たことがあったので、アイザックに説明してやった。
「その机に掛け布団を掛けるようになってるんだ。そしてねコンセントを差し込むと、机の裏側の赤外線ランプがついて暖かくなるんだよ」
「へぇ、そりゃいいやぁ」
早速アイザックは、ダンボール箱の中からコタツの足やら台やらを取り出して床へと並べて行く。そんなことしていいのだろうかと思いながら氷河はもじもじと立ち尽くしていた。
「さ、早く組み立てようぜ」
にこにこしてアイザックが氷河に行ってくるので、氷河は先生を少し見上げた。先生はゆっくりとうなずくと、リビングの奥の棚からドライバーセットを持ってきてくれた。
先生は2人に1つずつドライバーを手渡すと、自分もドライバーを手にコタツを組み立て始める。氷河も嬉しそうににっこりと微笑んで、コタツの組立作業に加わった。
「やったぁ!完成だぁ!」
しばらくして、アイザックと氷河が同時に声をあげる。コタツは立派に完成し、コタツ布団までしっかりと掛けられていた。
「すっげぇなぁ!なぁ氷河、早くコンセント差してみようぜ」
はしゃいで言うアイザックに、先生が「まだだ。まぁ、そう慌てるな」と微笑する。アイザックは「ええぇ…」と少し大げさにがっかりしたように言ってみせる。すると先生は、リビングの中央のテーブルや椅子を部屋の片隅に移動させ、ダンボール箱の一番底に入っていたカーペットを取り出して部屋の中央のスペースに広げたのだった。
それからコタツをカーペットの上に置き、ダンボールの隅の方にまとまって入っていた3つの座椅子をコタツの周囲に置いた。
「わぁ!」
すぐさまアイザックと氷河が駆け寄ってきて、カーペットの前でスリッパを脱ぎ捨て
「俺ここ!」
「それじゃ僕はここ」
と言った具合に、コタツを間に挟んで座椅子にちょこんと腰掛けた。もう2人ともコタツの中に足を入れて、今か今かと先生がコンセントを差してスイッチを入れてくれるのを待っている。早く早くと2人の目が訴えているので、先生はふっと笑ってコタツから伸びるねじれたコードを解き、コンセントを差してスイッチを入れた。
それから先生もコタツに入った。これまで冷たかった3人の足が徐々にぽかぽかと暖まってくる。
「あったかいなぁ…。俺、こんないいもんが日本にあるなんてちっとも知らなかったよ」
と嬉しそうに目を細めて言うアイザックに「うん、コタツはいいんだよ。お昼寝したらもう最高なんだからぁ」と氷河もにこにことして言った。
そんな2人の姿を温かな眼差しで見守るカミュ先生。そこへ電話がけたたましいベルの音を鳴らし、穏やかな雰囲気をぶち壊しにした。