休日を明日に控えたある深夜のこと。
夕食後から熱中していたゲームにもようやく飽きてきた光は、とりあえずゲームをセーブして電源を落とした。
そして暇になったので弟の馨に話しかけようと、ソファに座った状態で顔だけ後ろに向けて口を開きかけるも、さっきまで勉強机で読書していたはずの弟の姿が見当たらないのに気づき言葉を呑みこむ。
馨、一体どこ行っちゃったんだろう…?
ソファから立ち上がり、ざっと三十畳はありそうなほどの自室をぐるりと見渡す。
すると大きな窓の向こう側、ガーデンライトに照らし出されたバルコニーに人影があるのが目に飛び込んできた。
「まさか、馨!?」
すぐさま窓の方へと駆け寄り、急いで鍵を開けるとサンダルを履いてバルコニーへと駆け出す。
ブラーン!!
なんと驚くことに、何故か馨は屋根に掴まった状態でバルコニーの手すりの向こう側にぶら下がっている。
「馨!! なっ、何してっ!?」
「あはっ、懸垂。。なんて、ね」
言いつつ、思い切り苦笑いを零す馨に、光は思わず「は??」と間の抜けた声を出してしまう。
「ちょっ! 何が懸垂だよ! ここ三階だぜ!
危ないに決まってるじゃないか!」
いきなり我に帰った光が、そう言って馨の腕を掴んで引き寄せようとする。
「ちょっと待ってよ、光! 冗談だって!
今夜月食が見られるって天気予報で言ってたから、屋根の上で観測してただけなんだ」
「月食?」
「うん」
「じゃぁ、なんでいきなり そんなとこにぶら下がってるのさ!?」
「ついさっきから月食が始まったんで、慌てて光を呼びに行こうと立ち上がったら、バランス崩しちゃって…」
言って馨は苦く微笑した。
なるほど、そう言う訳か、と納得する光を見て、馨は言葉を継ぐ。
「早く見ないと月食終わっちゃうよ。光も一緒においでよ」
にこっと微笑むと、馨は懸垂の要領で軽々と屋根の上に上がった。彼に続くようにして、光もバルコニーの手すりに昇り、馨に倣って屋根の上に飛び乗った。
「ほら、見てごらん? あそこ!」
言って馨の指差す崎には、徐々に姿を消しつつある真紅の満月が神秘的な光を投げかけている。
「すんげぇ! あんな真っ赤な月見るのなんて初めてだ!」
無邪気にはしゃぐ光の隣で、馨も嬉しそうに月を眺める。
次に訪れる怪奇月食の時も、今夜と同じように、きっと二人並んで空を見上げてる。
だって僕らは双子だから。
光もきっと同じように思ってる。
分かるんだ。
だって僕は、君の片割れだからね。
〜Fin〜