桜蘭高校ホスト部

□「双子と浜辺と夢色の貝」
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 そよ風が深緑の葉を揺らして室内へと流れ込む。


ここ軽井沢にある常陸院家の別荘は実に風通しが良く、光も馨も大変気に入っていた。


真夏の昼下がり、読書を終えた馨は、中庭を挟んだ向こうの応接室にいるであろう光に会うべく図書室を出た。


廊下を歩いている途中、メイドの一人から「あら、馨おぼっちゃま、どちらへ?」と尋ねられたので


「あぁ、ちょっと応接室まで。光がいるかなと思ってね」と笑顔で答える。


するとメイドは「光おぼっちゃまなら、先ほど少し散歩してくるって出かけて行かれましたよ」と僅かに気の毒そうな瞳を向けながら言葉を継いだ。


そっか、光出かけちゃったんだ。


少しがっかりしながらも、メイドには笑顔を崩すことなく会釈してその場を後にし、何となくやってきてしまった玄関ホールの傍らに置かれた籐の椅子に腰を下ろして溜息を落とす。


ガラステーブルに片手で頬杖を突きながら、窓の向こうへと目をやると、雀達が数羽庭園の樫の木から飛び立って行くのが見えた。


開け放たれた窓から流れ込んでくるそよ風は、埃っぽい都会の空気とは明らかに異なり馨の肌や気道を癒してくれる。


「光…一体、どこ行っちゃったのかなぁ…?」


誰もいないのをいいことに、馨はそんな言葉をぽつりと声に出して呟くと、壁の時計に目を向けてから意を決したように椅子から立ち上がった。


よし、光を捜しに行こう。


 玄関でサンダルを履くと、ドアを押してポーチへと出る。


照り返しは強いけれど、都会と違ってまとわりつくような湿気がないので助かる。


うん、今日も空が澄んでる。


 ほぼ真上にある太陽を目を細めて一瞬仰ぎ見て、そんなことを思いながら馨は兄を捜すべく早足で歩き出した。


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