聖闘士星矢

□「ダブルデート」
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 ある日の夜のこと。


六畳二間のアパートで久しぶりの甘い夜を満喫していた氷河とカミュの恋路を邪魔するかのように、電話のベルが高らかに鳴り響いた。


ようやくこれから本番と言うところでムードをぶち壊しにされた氷河は、少々むっとした顔つきで電話台へと向かう。


そして引っ掴むようにして受話器を荒々しく取ると「はい」とだけ恐ろしく冷たい声で応答した。


「もしもし、氷河か? 俺、星矢だけど」


いきなりのテンション高めな友人の声に露骨にげんなりしつつ、いちいち名乗らなくたって分かるっての。と胸中でぼやく。


すると友人は楽しそうにこう話しかけてきた。


「なぁ、氷河? 今日からカミュもそっち来てるんだろ? だったらさぁ、明日俺らと一緒に遊園地行かねぇ?」


「何? 遊園地だと!?」


遊園地と言う言葉に氷河の表情が俄かに輝きを増す。


遊園地は小さい頃、マーマと一度だけ行ったことがあった。それはそれは楽しくて、氷河にとって一番眩しく輝いている思い出と言えるかもしれないほど印象的な場所の一つだった。


実はまだカミュとは行っていない。ここ最近は二人とも何だかんだと多忙を極めていたために、なかなかデートする時間も取れなかったからである。


 氷河は乱れていたシャツを光速で整えると、受話器をしっかりと握り直して星矢の話に神経を集中させた。


「実はさぁ、サガのヤツ、まだ遊園地ってとこに行ったこともないらしくてさ。だから明日行くことに決めたんだけど、せっかくなら大勢の方が楽しいだろうと思って、氷河達も誘ってみることにしたんだ」


「なるほど、そう言うことか。分かった、俺達も是非参加させてもらう」


「良かった! これで更に楽しくなりそうだな☆ じゃ、カミュにもよろしく言っといてくれな?」


「あぁ、伝えておくよ。で? 何時に待ち合わせる?」


 電話口で楽しげに応対する氷河を眺めながら、カミュは台所へと向い、冷蔵庫からアクエ○アスを取り出して二つのグラスに注いだ。


遊園地か…。そう言ってみれば、まだ氷河とは行ったことなかったな。


そんなことを考えながらジュースの注がれたグラスを持って部屋に戻ってみると、ちょうど氷河も電話を終えたらしく、ちゃぶ台の前に座って小さなメモ帳を眺めていた。


「喉が渇いただろう? ジュースを入れてきたから飲みなさい」


言ってカミュが氷河の前にグラスを置くと、氷河は目をキラキラさせて「ありがとうございます」と言い、グラスを手に取り、中の液体をこくこくと喉を鳴らして美味しそうに飲んだ。


そんな彼の表情を微笑ましく眺めながら、カミュもグラスを傾ける。


「カミュ、明日 星矢達と一緒に遊園地へ行くことになったんですけど、いいですか?」


「あぁ、もちろんだとも。遊園地か、楽しそうじゃないか」


「良かった! 俺、あなたと一緒に遊園地でデートするのが夢…だったんですよね」


少し頬を赤らめながら、はにかんで言う氷河の姿は、カミュにとって正に天使のように清らかで愛らしく映った。


「カミュ、コーヒーカップ、一緒に乗りましょうねっv あと、ジェットコースターも!」


「あぁ、分かった分かった。全部一緒に乗ろうな?」


カミュはそう言うと、氷河の隣まで歩んで行き、そっと背中から抱きしめた。



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 翌日、カミュと氷河が待ち合わせの時間 五分前に駅前に到着すると、既にそわそわしたサガと星矢が待ちかねたとばかりに二人に駆け寄ってきた。


「遅いぜ、氷河!」


「約束の時間 三十分前には来ておいてもらいたいものだな、なぁ カミュよ」


二人とも、完璧に遠足を待ちきれない子供状態である。


カミュと氷河は別に遅刻した訳でもないのに、何だか申し訳ない気持ちになってしまい、眉尻を下げて肩をすくめた。


「すまない、星矢、サガ。俺もカミュも、何故か来る途中、やたらと女性から声を掛けられてしまってな」


「それを丁重にお断り申し上げていたら、到着が少し遅れてしまったのだ。本当にすまなかった」


実際は悪くないはずなのに、カミュも氷河もぺこりと頭を下げた。


「でもさぁ、氷河…それって、逆ナンパってヤツなんじゃぁ……;;」


「逆、ナンパ? なんだそれは??」


全く意味が分からないと言った様子で小首を傾げる氷河の両手を、すかさずがっしりと握りしめて


「氷河よ、ナンパなど不良が使う言葉は覚えぬとも良いのだ。お前は今のまま、天使のような無垢な心でいてほしい」


そう、熱い眼差しを向けてカミュは公衆の面前で声高に言い放った。


「カミュ…分かりました! ナンパとは、不良の使う言葉なのですね! この氷河、あなたの教えしっかりと心に刻み付けました!」


「氷河…!」


「カミュ…!」


互いに見つめあい、今にも接吻を交わしかねない二人をサガと星矢が無理やり引っ張って改札口まで連れて行く。


周囲の女性人達からは、明らかに残念そうな溜息が零れていた。


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