聖闘士星矢

□「注射なんてだいっきらい!!」
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   東シベリアの寒さは厳しい。10月ともなれば、もう既に極寒な風が吹き荒れる。


冬と言えば、否応なしに流行り始めるのがインフルエンザ。


この土地は乾燥も激しいため、毎年 子供達の間ばかりではなく大人達の間でも大流行していた。


 まだ薄暗い早朝。ベッドで上半身だけを起こすと、カミュはサイドテーブルの上のスタンドをつけてから、スタンドの隣の手帳を手に取り おもむろに開いた。


10月16日。今日は村の診療所で子供達に予防接種を受けさせる日となっている。


以前よりカミュは、子供達に受けさせるついでに一応自分も受けておこうと考えていた。


でないと、師である自分がインフルエンザなどで寝込んでいては示し賀つかないからである。


パタンと手帳を閉じると、カミュはシャツとジーンズに着替えて、まだ夢の中を散歩している弟子達を残して寝室を後にした。


 リビングの暖炉に火を起こし、それから洗面所へと向かい氷に程近い水で顔を洗う。


バシャバシャと顔を洗いながら、子供達をどうやって診療所へと連れ出すかと頭をフル回転させる。


アイザックはともかくとして、勘の鋭い氷河のことだ。


大嫌いな注射のこととなれば ちょっとしたことでさえ気づかないとも限らない。


計画は慎重に進めなくては−−。


歯ブラシで歯をガシガシと磨きながら、カミュは一生懸命最良の案を練った。


 まずは買出しに出ると言って弟子達を連れ出し、真直ぐ診療所へ向かったのでは恐怖心を煽るだけなので、とりあえずは村のホットドッグ屋で昼食を取って…


それから診療所へ−−そして、アイザックはともかくとして。氷河は絶対に泣くだろうから、アフターケアが大切だ。


予防接種などがトラウマになっては、立派な聖闘士にはなれんからな。


 その後キッチンで体温計を脇に挟んで、たこさんウインナーをいためた。


予防接種の日に熱などあってはいけないと思ったからである。


フライパンの中のたこさんの足がピョンと開いたあたりで、体温計の電子音が鳴った。


−−どれどれ?


 体温計を脇からニョコッと抜き取り、体温を確認する。


36.6度、平熱だった。


−よしよし。


 満足げに体温計を元のケースに仕舞い、それからたこさんウインナーを皿へと移して、次に目玉焼きを焼き始める。


パチパチと音を立てているフライパンを背に、食パンを2枚トースターへと入れた。


トースターのスイッチを入れてパンの焼ける間、弟子達の好きなホットココアを作る。


小鍋でミルクを沸かし、そこへココアと砂糖を加えてよく混ぜる。


ココアができたところで、いい感じに目玉焼きも焼き上がった。


たこさんウインナーの横に目玉焼きを乗せて、彩りも考えてレタスも数枚置いてみた。


我ながら子供うけのする朝食を作ったものだ−−と思い、口元に僅かな笑みが零れた。


 ホットココアを注ぐべく、食器棚から弟子達のお気に入りのマグカップを取り出す。


アイザックは最近すっかり電車に凝っているらしく、新幹線のマグカップが大のお気に入りだ。


それとは対照的に、氷河は日本の何やら『ド○えもん』と言う青狸にも似たキャラクターが ひどくお気に召している様子。


氷河の話によると、その青狸−−もといド○えもんは22世紀からやってきたネコ型ロボットとのことで、主人公が困っているときなどは色んな未来の道具を腹に装着されたポケットから出してくれると言うものだった。


けれどカミュには、それがネコにはどうしても思えなかった。


どう見たって、青い雪だるまか狸にしか見えないのである。確かに愛嬌はあるけれど−−。


 ド○えもんのマグカップにココアをなみなみと注ぎながらトースターへと目をやる。


「おはようございます、カミュ先生」


 弟子達の元気な挨拶とほぼ同時にトースターに刺さっていた2枚の食パンがビョンと跳ね上がった。


「あぁ、おはよう」


言いながら手際よくトースターからパンを抜き取り、白い皿へと乗せ、次に自分の分の食パンをトースターへと入れる。


そして、テーブルの上の体温計をケースから取り出して、


「さぁ、お前達も体温を計りなさい」と二人の前に差し出す。


きょとんとして見上げてくる弟子達。


「なんで?」


極めて自然な問いがアイザックから発せられると


「今日は村まで買出しに出かける日なので、そんな日に熱などあってはならないからな」


と、カミュはあくまでも自然に疑われぬよう返した。


「えっ?今日、村へ出かけるの?!」


その途端、二人とも瞳をキラキラと輝かせ始める。


「でも俺、熱なんか計んなくても元気なんだけどなぁ…」


言いながらもアイザックは素直に体温計を受け取ると、脇に挟む。


「その間に氷河は顔を洗ってくるといい」


「はぁい」


こちらも素直なもので、トコトコと洗面所へと向かって小走りに行ってしまった。


今のところ、二人とも全く気づいていないようだ。


−−よしよし。


 満足げに心の中でほくそえむと、カミュはできたばかりの朝食をトレーに乗せて運び始めた。


 ピピピッ!背後でそんな電子音が聞こえ、その後すぐに


「せんせーい!体温計鳴ったよぉ!俺、35.3度!平熱だよぉ!」


とアイザックが隣にダダーッと駆けてきて、カミュの前に体温計を突き出した。


確かに35.3度だった。子供の割りに随分と低いな…と思った。


「では、氷河に渡してきなさい。そしてお前も顔を洗うんだぞ」


カミュが言うと、アイザックは「はぁい!!」と大きすぎるくらいの声で返事したかと思う間もなく、体温計をブンブンと振り回しながらダダーッと洗面所の方へと駆けて行った。


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