聖闘士星矢

□「誕生日に心をこめて」
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 早朝、カミュの弟子であるアイザックと氷河は、こんがりと焼けたトーストを前にカミュの発明品水力ラジオに耳を傾けていた。ラジオからは『本日の占い星座ランキング☆』が流れている。若い女性のパーソナリティーが牡羊座から順に今日の運勢を、朝っぱらからやたらと乗りのいいBGMに乗せて滑舌よく告げていた。
2人はそれほど占いには興味を示してはいない様子だったが、ただなんとなく自分達の星座水瓶座の運勢が告げられるのをぼんやりと待っていた。そこへ目玉焼きとサラダを運んで彼等の師であるカミュ先生が戻って来る。

「そう言えば氷河さぁ、先生の誕生日って知ってる?」

何がそう言えばなのか分からないが、氷河はアイザックの問いに小さく首を横に振る。アイザックが「なぁんだお前も知らないのかぁ」と言うので「じゃぁ、アイザックは知ってるの?」と問い返した。だがアイザックは「知らないよ」ときっぱり言い放つと、3人分のホットミルクをカップに注ぎ分けている先生へと目を向けた。

ちょうどラジオから「今日2月7日水瓶座の運勢は」と聞こえてくるところだった。アイザックは再びラジオの方に向き直り、僅かに神妙な顔をしてその声に神経を集中させた。氷河も意外と気になるらしく、テーブルに身を乗り出して聞いている。

「今日2月7日水瓶座の運勢は、全体的に運勢は安定しています。思いがけないラッキーな出来事に出会える予感。ただし、ありがた迷惑なことに巻き込まれる危険性もありますので充分ご注意を。ラッキープレースはリビング、ラッキーアイテムは胃腸薬です☆」

 カミュと氷河が無言で、ラッキープレースがリビングなのは良いとして、胃腸薬がラッキーアイテムとはどう言うことだ?と疑問符を浮かべているところへアイザックが「そっかぁ。ラッキーアイテムは胃腸薬かぁ。ねぇ、カミュ先生。ここには胃腸薬とかあるの?」と無邪気な笑顔で問うてくる。

カミュ先生が少し苦笑しながら「あぁ、救急箱の中にな」と教えてくれたので、アイザックは嬉しくなって「それ持ってたら、何かいいことあるのかなぁ」と目をきらきら輝かせて言うのだった。

氷河は首を傾げて先生を見上げた。先生はいまだに苦い微笑を浮かべている。

「まぁ、とにかく今は食事だ。占いのことならまた後で話せばいい」

先生の言葉に氷河がこくりとうなずく。アイザックはほんとは今すぐにでもラッキーアイテムを探しに行きたかったのだけど、さすがに先生の言うことに逆らうことはできなかった。

 食事が始まってからすぐ、思い出したようにアイザックが再び口を開いた。

「ねぇカミュ先生、先生の誕生日っていつ?」

先生は、かじりかけのトーストを手にしたまま「2月7日だ」と教えてくれた。すると「えっ?今日が先生の誕生日だったんですか?!」と小さな2人が同時に驚きの声を発した。

「じゃぁ、お祝いしなきゃ。僕が誕生日の時は、いつもマーマがケーキを作ってくれたんだよ」

「それじゃ、ケーキ作ろうぜ」

「でっでも、僕作り方なんて知らないよ」

「俺だってそんなの知るもんか。だから2人で調べるんだろ?」

「あ、そっかぁ」

いつの間にか話は進んでいた。非常にいやな予感を胸に抱きつつ、熱いミルクを一気に流し込むと、喉に焼けるような感じを覚えて先生は一瞬だけ顔をしかめる。両側では愛弟子2人がにこにこと笑いあいながら今日の計画を練っていた。


 夕方、3人が本日のトレーニングを終えて戻ってくると、家の前に宅配業者のトラックが止まっており中年の男が辺りを窺っているのだった。中年男は小太りで眼鏡をかけており、人のよさそうな雰囲気を漂わせている。男は戻ってきた3人に気が付くと「すみません。代金引換でカミュ様宛てにお荷物が届いております」と言う。

カミュは右に氷河、左にアイザックを伴って男の方へと歩みながら「どうもご苦労様です」と微笑した。しかし、代金引換で注文した物などないはずなのに、いったい何が届いたと言うのだろうか…?カミュの心に一瞬いやな予感が掠めた。

サインをして荷物を受け取るカミュ。箱はやたらと大きくて重かった。とりあえず荷物はその場に置いといて、カミュは一旦リビングへと足早に向かい、鍵のかかった机の引き出しから財布を取り出して再び玄関へと戻る。

すると弟子達が巨大な荷物を間に興味津々と言った様子で、何かひそひそと言い合っているのだった。

「おいくらですか?」

「えぇっと…6万2790円になります」

愕然とした。それと同時に己の耳をも疑った。

「あの、6万2790円ですけど…」

無表情で立ち尽くすカミュへと訝るように中年男が気弱に言う。

「分かっています」

財布の中から6万3000円取り出して男へと手渡すカミュ。財布が急に軽くなった気がした。いや、気だけではなく実際に懐は極寒だった。そう。この凍てつく雪原よりも。

 配達員がトラックに乗って行ってしまうと、カミュは一気に脱力感を覚えた。弟子達は相変わらず荷物を挟んで「これ何だろうなぁ?」だの「きっと先生への誕生日プレゼントじゃない」だの好きなことを話している。

カミュはその氷河の言葉に、誕生日プレゼントに何故私が6万以上も支払わねばならぬのだ。しかも日本円で!と胸中ではかなり激怒していた。

そして彼が荷物の差出人の欄に視線を落とすと“ミロ”とあった。正直、氷の棺に閉じ込め、ギリシャの新たなる観光スポットとして永遠にどこかへ飾ってやりたいとさえ思った。

だがこんな時こそクールで居なくてはと己に言い聞かせつつ「さぁお前達、早く中へ入るぞ」と言って、そこに鎮座していた巨大なダンボール箱をカミュは抱えて歩き出す。

「はぁい」

言って弟子達も彼の後に続いた。
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