聖闘士星矢

□「星降る夜に」
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 晩秋の夜は長い。


風呂上りに氷河は、宝瓶宮のテラスにあるベンチに1人腰かけ、今にも降り注ぎそうな満天の星星をじっと見上げていた。


キラキラと瞬く星たちに見とれていると、一陣の風が吹いて彼の柔らかなウェーブをふわりと揺らした。


それと同時に爽やかな香りに包まれ、背後に愛しい人の気配を感じ、氷河は肩越しに部屋に通じる扉の方を見やる。


氷河の予想通り、愛しいその人は柔和な微笑を湛えてそこに立っていた。


ノースリーブの淡い水色のシャツに、黒のスラックス姿で、長い髪は後ろで1つに束ねられている。


彼も今風呂から上がったばかりなのだろう。艶のあるストレートの髪が濡れ、いつにも増して艶やかな印象を醸し出していた。


「なんだ氷河、ここに居たのか」


自分を見つめたまま身動きしない氷河へとカミュは穏やかにそう言うと、彼の元まで歩み寄り静かに隣に腰を下ろした。


「あ、そのバレッタ…使ってくださってるんですね。嬉しい!」


言って氷河は無邪気に微笑んだ。


「あぁ、もちろんだとも。とても気に入っている。氷河、お前はセンスがいいな」


「い、いえ、そんなこと…カミュは綺麗だから何を付けても似合うんですよ」


言いながら氷河の頬が僅かに染まる。


「でもカミュ。まだ髪の毛が濡れてますよ。風邪ひくといけないから、俺が乾かしてあげます。さ、部屋に入りましょう」


と立ち上がりカミュの手を取った。


けれど、逆にその手をぐいっと引っ張られ、はっと我に返ったときにはもう既に彼の腕の中にスッポリと収まってしまっているのだった。


「うわっ!ど、どうしよう…俺っ!!」


「今夜は本当に星が綺麗だ…!」


動揺して赤面する氷河を軽々と横抱きに抱きかかえて、カミュは星の瞬く夜空を仰ぎ見た。


氷河はカミュの艶やかな首筋を目前に、本当は星どころではなくどぎまぎしていたのだが「え、えぇ、ほんとに…」と少し上ずった声で言葉を返す。


 (ドキドキドキドキ!!)


鼓動が早鐘のように鳴り響く。


−−落ち着け!落ち着くんだ俺!!クールだ。クールに徹するんだ!そうだ、こんなときこそカミュの教えを守りクールに……って、だっ、だめだ〜〜っ!!クールと言う言葉自体がカミュをイメージさせて余計に混乱してしまう〜〜!!


氷河は気を静めるため、力いっぱい目を閉じた。けれど緊張のためか、額には薄っすらと汗がにじんでいる。


−−落ち着け…落ち着くんだ俺…!!そうだ!何か別のことを考えよう。


例えば、えぇっと…あぁ、そう言ってみれば、さっきアイザックからメールが来ていたな。確か、ペットのトナカイに子供が生まれたとか生まれないとか…(←おいおい、どっちなんだよ。 By ミロ)


えぇっと、それに…日本の沙織さんから海苔1年分が送られてきてたっけ(←何故に海苔!しかも1年分って多いな、おい(汗) By ミロ)


おっ、そうそう。今日の夕食のグラタン。あれはなかなか上手くできたな。カミュも喜んでくれたし。やはり、隠し味のチョコレートが良かったのだろうか…(←って、一体どんなグラタン作ったんだ!?(滝汗) By ミロ)


 などと考えを巡らせているうちに、徐々に緊張もほぐれてきた。−−よしっ!!俺はもう平気だ!いつものクールな俺で居られる。


…はずだったのだが…ばちっと目を開けるとそこには、カミュのアップの顔があって…氷河は再び赤面して狼狽することとなった。


「どうした氷河?顔が赤いが、もしや具合でも悪いのか?」


言うなり、カミュの顔が更にズームアップして…ピタリ。。とおでこが密着した。


「うむ…少し熱っぽいようだが、大丈夫か?」


おでこを離して、またいつもの穏やかな口調で問いかける。


今のオデコタッチにより、氷河のサファイアの瞳は驚きと緊張で空中を見つめていた。


「氷河よ、やはり体調が悪いのか?」


氷河の顔を心配そうに覗きこみカミュが尋ねる。ふと我に返り「だっ、大丈夫ですっ!ちょっと長風呂しすぎて上せたのかもしれません」ととりあえず、ありきたりな嘘でごまかした。


「そうか。今度からは、あまり長湯せぬよう気をつけねばならんな」


言うとカミュは氷河の肩をそっと抱いた。


「なんか…幸せだなぁ…」


思わずそんな言葉が氷河の唇から零れ落ちる。そして、頬を赤らめながらもカミュの肩に頭をもたれかけると、澄んだブルーの瞳で子犬のように彼の瞳を真直ぐに見上げた。


「あぁ、私も幸せだ。氷河、お前と共にこうして生きて行けるのだから」


憧れてやまなかったその人の視線が、今はたった1人、自分だけに注がれている。


そう思うだけで氷河の心は幸福感で満たされ、湧き上がる喜びで涙が出そうになるのだった。


星たちの見守る中、2人の唇が静かに重なり合った。


爽やかなシトラスの香りに包まれて、二人きりの私服の夜は続く。


〜Fin〜




 【後書き】



氷河さんが壊れてますが、その辺りはどうかお許しを!


いきなり姫だっこされて、かなり動転していた、と言うことで納得してやってください。


このような駄文をお読みくださり、本当にありがとうございました。


 

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