「ごほごほごほっ!!」
その日の朝、激しく咳こみながら皿洗いをする師の後ろ姿を、氷河は心配げに黙って見つめていた。
ダイニングには、皿を洗う水の音と、師カミュの激しい咳の音だけが聞こえている。
外は透けるような青空で、陽光もさんさんと降り注いでいると言うのに、風邪のため辛かろうとも、そんな素振りを1つも見せず極普通に振舞う師カミュの姿を見ていると、弟子である自分の方が辛くなってくる。
「ごほごほごほごほっっっ!!」
どんなに激しく咳き込んでも、カミュは顔色1つ変えることはない。普段の朝と同じように後片付けをこなすだけ。
「あの…カミュ」
「ん?何だ、氷河」
振り返って答えたあと、カミュが再び激しく咳き込む。
「あぁ、大丈夫ですか?」
慌てて氷河は師の背中をさすった。
「ごほっ…す、すまないな氷河…」
と僅かながら辛そうな表情を浮かべるカミュを見て、氷河の胸はキュンと痛くなった。
「あ、あの、カミュ…」
「ん?」
「俺…」
「…」
沈黙の中、じっと見つめ合う2人。氷河がカミュの片頬に掌で触れると、カミュの熱が掌にジンワリと伝わった。
それから目を閉じて、カミュの唇にそっと口付ける。
次に氷河が顔を離したとき、きょとんとした表情で自分を覗き込む師の瞳と視線がぶつかった。
「氷河よ、そんなことをしては風が移ってしまうぞ」
容易に予測できた師のセリフに、氷河は無邪気な笑顔を見せて
「平気ですよ。これでも毎日鍛えてますから」と明るく返す。
カミュはふっと微笑を漏らし、再び洗物に取り掛かろうとしたが、氷河に「おとなしく寝ていてください」と言われたので、たまには弟子の思いやりに甘えるのも悪くはないだろうと思い、寝室へと向かうのだった。
それから3日後のこと。
カミュの風邪は完治したものの、今度は氷河が寝込んでしまっていた。
氷河のベッドサイドには、いつも師カミュの姿があって。今もまた、おかゆを食べさせてやっているところだった。
「どうだ?少しは食欲出てきたか?」
「はい。カミュのおかゆは美味しいですから」
「そうか」
と温和な笑みを浮かべるカミュへと
「実は俺…小さい頃みたいに、カミュに看病してもらいたかったんです」
とちょっとはにかんで氷河は言った。
「なるほど。だからこの間、あのようなことをしたのか」
くすくすと笑いを零しつつカミュが言うと、氷河は照れたように目を細めてカミュの手の甲にそっと頬を寄せた。
☆おしまい☆
【ただの言い訳】
まさにちょい甘☆
ただ、甘えん坊な氷河さんを書いてみたかっただけなのです(汗)
タイトルの割りに、大して甘くなくてごめんなさいm(__)m