日が落ちてきた。紫と茜色のグラデーションが空を染める中、金髪の少年 氷河は大切な人の元を目指して歩いていた。
彼に逢うのはもう数ヶ月ぶりになる。それだけに心は至福に満ち溢れ、軽く弾んでいた。
日が沈む…と、ほぼ同時に白い粉雪がちらほらと舞い始めた。
「雪・・か」
何気なく呟く。普通なら淋しく感じる瞬間も、今日は温かく流れ行く。
一歩・・一歩と足を進める度ごとに、身体だけでなく心まで彼に近づくような気がして嬉しくなる。
逢って最初に彼は何と言うだろうか…?
きっと、「よく来たな」と淡く微笑んで出迎えてくれるはずだ。
そう思うと、氷河の胸は余計に弾んだ。嬉しくて・・嬉しくて…
早く逢いたい!!ただその想いだけで心がいっぱいになる−−。
足が自然と速くなる。あの人の元へ…
1分、1秒でも早く着きたい−−!
サラサラと降り注ぐ粉雪を金の髪に受けながら、北風まで味方につけて気がつけば氷河は走っていた。
向こうに懐かしい木造りの家が見える。もうすぐだ。もうすぐあの人のもとに辿り着ける−−!
不意に視線を滑らせたその先に…
氷河はあの人のシルエットを見つける。
彼は、家の傍らにある針葉樹の幹にもたれかかり、1人静かに本を読んでいる。
まさか、この雪の降りしきる中、自分を待っていてくれたのだろうか…?
胸底から熱いものが込み上げてくる。
あの人の名を呼ぼうと唇を動かしかけたその刹那…
彼がゆっくりと目を上げた−−。
視線が合う…
彼の口元が笑みの形を刻んだ。
待っていてくれたのだ。こんなに雪の降りしきる中、あの人は自分だけを待っていてくれたのだ…!
鼻の奥がつんと痛くなって、目頭が熱い。
きらりと散った一滴は、粉雪と一緒に銀の大地に姿を変える。
走ってあの人の胸に飛び込んだ。
パサリ・・と雪の大地に落ちる本。
抱きしめて、その大きな手で髪を撫でてくれた。
懐かしい白のコート…。懐かしい あの人の香り…。
顔を上げて互いの目が合うと、もう1度彼は優しく微笑んだ。
瞳を閉じる…
そっと唇が重なり合う…。
冷たい唇…けれど、心は何よりも温かだった−−。
〜Fin〜