「全く、氷河もカミュもやめてくれよな、こんなところで」
「すまん、星矢…」
今日の俺は何だか謝ってばかりだな。と胸中で苦笑しつつ、氷河は切符を買い、改札口を抜けてホームへと向かう。
カミュも心なしかしょげているように見える。
それもそのはず、カミュはカミュでサガからきつい説教を受けていたのだから。
「全く、最近の若いもんは…公衆の面前で、あのような破廉恥なことを!」
「まあまあさが、もういいじゃん? カミュも大人として反省してるみたいだし、これ以上説教すんのも可愛そうだよ」
星矢がニコニコしながら言うと、サガは「仕方ない、私の可愛い星矢がそこまで言うのだから、もうこれ以上は何も言うまい。カミュよ、以後気をつけるのだぞ」と普段の温和な表情へと戻った。
「はぁ、以後気を付けます」
言ってカミュは肩を落とすと、氷河と若干距離を開けて歩き出した。
「カミュ…!」
寂しげな瞳を向けてくる氷河へと「すまない、氷河…! 私はお前と接近すると、すぐに我を忘れてしまう癖があるようだ。お前に恥ずかしい思いをさせたくはない。なので距離を開けてだな」
「いやです! 別に人様にご迷惑をお掛けしている訳ではないのだから、並んで歩いたって良いはずです」
「氷河…!」
「カミュ…!」
ホームの黄色い線の上で熱く見詰め合う二人。
「三番線に電車が入ります。危ないですから、黄色い線の内側までお下がりください」
そのような放送が流れても、カミュと氷河は見詰め合ったまま一向に動く気配もない。そればかりか、互いの唇の距離が狭まってさえきている。
「ちょっと、お客さん! 危ないから下がってくださいってば!」
ずるずると駅員から引っ張られ、二人はベンチに無理やり座らせられた。
「はい、ここなら、いくらでもチューしてくださって構いませんので。好きにしてくださいな」
言うと駅員は呆れたような表情で、さっさと離れて行ってしまった。
「氷河とカミュさぁ、ほんっと中いいんだな。俺、羨ましくなってきたよ」
最初こそ呆れていた星矢だったが、二人の隣に腰を下ろすとそんな風に言ってニコっと笑った。
「何、星矢? もしやお前も、この場で接吻してほしいと言うのか?」
サガも星矢の隣に座り、さりげなく言うと彼の手を取る。
「あぁ…うん、ちょっと羨ましい、かな? なんて」
「そうか、分かった!」
ブチュ〜!!
あまりにも突然のことで、カミュと氷河を含め、周囲の人々の視線が全て口付けを交わすサガと星矢に釘付けとなっていた。
そして二人の唇が離れた瞬間。カミュはすかさず
「サガよ、コフィっても宜しいでしょうか?」とのたまっていた。
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電車に揺られること約三十分。四人はようやく目的地である遊園地に到着した。窓口でそれぞれフリーパスを購入し、期待を胸にゲートをくぐる。
四人の目に最初に映ったのは、色とりどりのコーヒーカップ。軽やかな音楽に合わせるように、巨大なカップが滑るように回転しているのを見るなり、氷河は思わずカミュの手を取り駆け出していた。
「カミュ、一緒に乗りましょうねっv」
可愛く片目を閉じて見せる氷河にハートを打ち抜かれ、もう少しで遊園地内にも関わらず抱きしめてキスしてしまいたくなるのを必死で耐えながらカミュは「あぁ、分かった。乗ろうな?」と頷き笑顔を返す。
そんな二人の後を追うようにして「サガ、俺らも乗ろうぜv」と星矢もサガの手を取って駆け出した。
係員にパスを見せて、カップルは各々のカップへと乗り込む。
音楽が鳴り始め、カップがゆっくりと回転し始める。
「あはぁ、懐かしいなぁ…! この真ん中のハンドルを回すと、回転速度が増すんですよね?」
言うと氷河は中央にあったハンドルを思い切りグルグルと回した。それに比例してぐんぐん速度を増して行くコーヒーカップ。
氷河のフワフワの金髪が、カミュの流れるようなストレートヘアが派手になびく。
「あぁ…なんて懐かしいんだろう…? 小さい頃、今みたいに激しく回転させすぎて、マーマを酔わせちゃったんですよね…」
思い出に浸る氷河にカミュは苦笑を浮かべながら「すまないが氷河よ、こんな時までマーマの話は…やめてもらえないだろうか…? 地味にブルーになる……」と言い、なびく髪を片手で押さえた。
「す、すみません…カミュ…。俺、決してそんなつもりで言った訳では…」
急に悲しげに表情を曇らせ謝罪する氷河の手をカミュは両手で包み込むと、「いや、私の方こそすまなかった。これくらいのことでブルーになってしまって……。どうか氷河よ、軟弱な私を許してくれ…」と熱情溢れる瞳で見つめる。
そんな彼の熱い眼差しに、氷河も彼のことをしっかりと見つめ返した。
高速で回転するコーヒーカップの中、深く見詰め合う二人。
いつしか互いの唇は重なり合い、それはもう自然と深いものへと移行して行った。まさにミラクルディープキッス!!
普通のカップルならば見つめ合った時点で酔いそうなものだが、そんな常識はこの二人には通用しない。
ひたすらブチュ〜っと交わしている二人を乗せて、コーヒーカップは夢のように回る。
回る、回る回る〜☆