浅き眠りの森

□禍福は糾える縄の如し
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最近、皆の様子が可笑しいのです。
どうもよそよそしいと言いますか、私の姿を見るやいなや引きつった笑顔を浮かべ目を泳がす始末。
それが一人ならまだしも、家中の者がそうなのです。

一体どうしたというのでしょうか…?


思えば、先ほどもそうでした。

柔らかな日差しに目を細め、塵一つとして落ちていない廊下をしゃなりしゃなり。
本日はお茶を楽しもうか華を愛でようか、はたまた散歩へ出掛けようかと悩んでいた時です。
長い渡り廊下に響く、もう一つの足音。
急いでいるのか、間隔の短い荒々しいものでした。



「こっ、惟盛殿…」


そのまま素知らぬ顔で通り過ぎれば良いものを。
私の姿を認識した途端、不自然に足を止めた名も知らぬ文官。

はらりと。
彼の手の上に、それこそ富士の山の如く高く高く積み上げられた色紙が一枚。

音も無く床へ吸い付くように、私達の間へ舞い降りました。


「落ちましたよ。」




お気をつけなさい、そう付け加えて戻してやろうとしたのですが。



「し、ししし失礼致しました!!」


人の言葉の続きも聞かず脇目も振らず、脱兎の如く駆けていってしまったため遂にもとの頂へと戻すことは叶いませんでした。
あまりに慌てて駆けていったのでしょう、宙を舞う新たな色紙達は、はらはらと散りゆく花弁のよう。

そしてまた、この長く暗い廊下には私一人。



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